第24話 正体

 その日から、登校すると春島さんの机にはいつも鞄だけが置かれ、本人は居ないことが続いた。そして、HRギリギリに帰ってくる。何か部活でも始めたんだろうか。


 少し気になるな、と思っていたある日、俺はなぜか朝早く目が覚めてしまった。そこで、早めに登校してみた。いつもより1時間近く早い。これなら春島さんより早く登校できるかな、と思ったが、学校に来てみると春島さんの机には既に鞄だけがあった。


 いったい、どこに行っているんだろう。ますます興味がわいてきた。どこに行ったのか、少し探してみることにした。


 漠然と校内を歩くのも他の生徒から見られて何をしているか言い訳できない。そこで、ふと屋上に行ってみることにした。


 といっても、屋上の扉はいつも閉まっている。屋上の鍵は必要があれば借りられるということだが、もちろんそれ相応の理由が無いとダメだ。だから、開いているはずは無い。と思いながらも何かの部活で春島さんが屋上に居る可能性もある。念のため屋上のドアノブを開くとあっけなく開いた。


 そして、そこには一人の少女が踊っていた。激しくも綺麗なダンス。小さく曲が流れているがよく聞こえない。やっぱり、春島さんだ。朝日の中で踊る春島さんは眼鏡もマスクもしていない。ダンスが趣味だったのか。


 春島さんは俺に気づかず、激しく踊り続けている。朝日の光の中で美しく輝いているように見えた。俺の目は完全にそこに吸い寄せられていた。


 だが、そこでふと既視感に気がつく。このダンス…どこかで…。そうだ、KIP公演曲の2曲目だ。それに気がつき、春島さんを良く見る。眼鏡もマスクも外した顔をしっかり見るのは初めてだ。そして、ようやく気がついた。


「ルカっち!?」


 思わず声に出てしまう。春島さんの顔は糸島ルカそのものだった。


「!?」


 俺の声に春島さんは気がついてしまう。踊りを止め俺の方に走ってきた。

俺が呆然としていると、横をすり抜けそのまま扉から出て行ってしまった。


 ──春島さんが糸島ルカなのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る