第20話 全力

 公演が終わってハイタッチを待つ間、俺は真剣に考えていた。


「大丈夫?」


 何も話さない俺に吉川は心配の声をかけてくれた。


「悪い。ちょっとルカっちのこと考えてて…」


「そっか。ちょっとびっくりしたよね。あんなに泣いてるルカ、私も長いつきあいで初めて見たから」


「長いつきあい?」


「あ、お披露目から推してるからね…」


「そうか。明日、ちょっと話いいか。考えを自分なりにまとめて話したいことがある」


「考え? うん、いいよ」


「悪いな」


 そう言って俺はまた無言になって糸島ルカについて考え続けた。


 そして、翌日の昼休み。俺は吉川と奥山を近くに呼び寄せた。ちなみに春島さんはいない。昼休みはいつも教室の外に出ているようだ。


「なんだよ、話って」


 奥山が不審そうに言う。


「ルカのことでしょ」


 吉川が言う。


「昨日の生誕祭か。なんかすごかったみたいだな。泣いてたんだろ?」


 奥山は公演には入っていなかったがネットの情報で知っていたようだ。


「ああ。そうだ。とにかく、昨日みたいなのはダメだ」


「え?」


「あんな反省だらけの泣かせる生誕祭はダメだ」


 吉川はそれを聞いて、困った顔をした。


「まあ、ルカは反省好きだから。許してあげて」


「そうじゃない。ダメなのはルカっちじゃなくて、俺たちだ。ルカっちのファンだよ」


「え?」


「総選挙でルカっちをランクインさせることができなかった。だから、あんな涙の生誕祭になったんだ」


「そう…だね」


「俺はあんな生誕祭は二度とさせない。来年は笑顔の生誕祭にする。ルカっちのあんな姿は見たくないんだ」


「そっか。で、どうするの?」


「総選挙にランクインさせる。絶対に」


 俺の決意に2人は驚いていた。


「ランクインか~、うーん」


 奥山が腕を組む。


「正直難しいと思うよ。ルカっちさ、そこまで人気あるわけじゃないんだよ。ランクインの壁は高いよ。今年だってある程度集中したのに圏外なんだから」


「分かってるさ。だから、全力でやる。お前たちも出来れば協力して欲しいんだ」


「そりゃ、できることなら協力するけど…何やるの?」


「まだ、考えてない」


「「は?」」


 2人はあきれていた。


「まだ時間はある。これから考えるんだよ。何かアイデアがあったら教えてくれ」


「全く……。行き当たりばったりなんだから」


「でも新田がそこまで力入れるのは珍しいね。で、ルカっち推しになったわけ?」


 そう言われて俺は考える。そういえば箱推しを自称していたが、昨日から俺は糸島ルカのことしか考えていない。


「ああ、そうだな。おれもルカっち推しといっていいと思う」


「そっか、新田君もついにルカ推しか~」


 吉川が嬉しそうに言った。ちょうど、そこに春島さんが帰ってきて席に着く。


「そっかあ、新田君もついにルカ推しか~」


「ん?なんで2回言った?」


「大事なことだから、かな」


 いったい何が大事なんだか。吉川の言うことはよくわからなかったが、俺の決意は伝わったはずだ。


「とにかく、次の総選挙。ルカっちをランクインさせる。全力で行くぞ!」


「よし来た!」


「うん、必ずランクインさせる!」


 俺は頼もしい仲間たちを得た。そういえば、春島さんも吉川の友達だし、手伝ってくれないだろうか。


「春島さん!」


「!?」


 驚いた顔をしてこちらを見る。


「あ、あの~。俺たち、糸島ルカっていうアイドルを応援するんだけど。協力してくれない?」


 おそるおそる声を掛けたが、何か取り乱したように逃げられてしまった。

 うーん、やっぱり撃沈か。すっかり吉川に笑われてしまった。

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