第三章 デビュー

第21話 春島珠子

 ──その日の夜。私、春島珠子は東京に居た。さまざまなメディアやグッズの撮影のため、定期的にメンバーは東京に行く。明日からは忙しくなるが、今日はまだ移動だけだ。


 今日は最後の授業だけ休んですぐ移動したから親友・吉川実香と何も話せていない。

 ホテルの部屋にようやく落ち着いて電話を掛けた。


「珠子、東京着いたの?」


「着いた着いた。今はホテル」


「そっか……。今日さあ、昼休みに新田君が盛り上がっちゃって」


「一体何だったの?驚いたよ」


 昼休みの終わりに席が着いたら、新田君が私推しになったって話で盛り上がっててすごく驚いた。いったい、何があったんだろう。


「昨日の生誕祭、私と新田君と来てたでしょ。……ショックだったみたい。珠子の……ていうかルカの涙って初めて見たからさ」


「ごめん。泣くつもりなかったんだけどね。ハッピーが売りなのにアイドル失格だよ」


「でも、たまにはそういうところも見せた方がいいんじゃない? 現にあれで推しが1人増えたんだから」


「え、新田君、あれ見て私推しになってくれたの?」


「うん。やっと決意したみたいね」


「そっか……」


「それだけじゃないよ。次の総選挙に絶対ランクインさせるんだーって張り切っちゃって。もうルカっちを泣かせはしない! って」


 顔が熱くなる。


「そ、そうなんだ……。でも、総選挙はお金もかかるし大変だよ。なんか危ないこと考えたりしてないよね」


「それがさ、まだ何も考えてないって」


「え!? 何それ」


「フフ、まだ勢いだけって感じ。これから具体的な作戦は考えるってさ」


「そ、そっか……。じゃ、当てにせず、私が頑張るしかないってことね」


「今のところはね。でもきっと次の総選挙までには何かやってくれるよ」


「うん。何でもありがたいよ。私も頑張る」


「頑張って。でも頑張りすぎないように」


「分かってる。でも、他の人より頑張らないと。私は出来ない子だから」


「そんなこと無いって。体も休めることも大事だからね」


「うん。じゃあ、そろそろ寝るね」


「うん、おやすみ」


「おやすみ」


 そうか、新田君が私を推してくれて、そして総選挙も何か分からないけど頑張ってくれるんだ。


 そう思うと、じっとしては居られなかった。音楽を掛けてダンスの練習を始める。みんなの期待に応えるんだ。


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