第19話 生誕祭

 12月になり糸島ルカの生誕祭の日がやってきた。糸島ルカ初めての生誕祭。俺もこの公演には入りたかったが、吉川実香とのカップルシートで見事に当選。2人で公演に来ていた。


 しかも3順で入ってなかなかいい席に着く。公演がスタートすると今日も相変わらずのハッピーオーラ全開のルカっちが見られた。生誕祭だけあっていつもよりルカっちコールが大きい。俺も全力で声を出した。


 そして、いよいよ公演終盤。糸島ルカと仲がいい千島夕子が司会となり、生誕祭イベントがスタートした。ケーキが運び込まれ、糸島ルカがろうそくを消した。


「ルカっち、16歳の誕生日、おめでとう!」


「ありがとう! ハッピーだよ!」


 糸島ルカはトレードマークのハッピースマイルだ。


「ルカっち、今日の誕生日のメッセージお願いします」


「うん、分かった」


 そういうと糸島ルカは話し出した。


「今日は生誕祭に来てくれてありがとう! とってもハッピーだよ!」


 ルカっちコールが大きく鳴り響く。それが鳴り止むと糸島ルカは静かに話し出した。


「私はKIPではセンターをやらせてもらってるんだけど、自分がセンターに立っている理由が分からなくて、ずっと悩んでたんだ……」


 いつもと違う真剣な口調に会場が静まりかえった。


「私は得意なものが何もないし、他のメンバーより魅力があるわけでもないし。だから、なんでセンターに立ってるんだろうって……。でも、みんなの応援もあって、メンバーの支えもあって、今では自分がセンターでもいいんだなって少しずつ思えるようになったよ」


 他のメンバーたちも真剣な表情でルカの言うことを聞いている。


「今年はたくさんメディアに出させていただいて、KIPの顔のように扱ってもらったのに、総選挙でも結果が出せなくて……。悔しい1年になっちゃったかな」


 糸島ルカはここで話せなくなってしまった。初めて見るルカっちの涙。俺は大きく動揺していた。隣では吉川も泣いている。後ろではメンバー何人かも泣いているのが見えた。


「ファンのみなさんから応援されて、期待されてるのに応えられない自分が悔しくて……。私に出来るのはもっともっと努力することだと思うから、今度は後悔しないように一生懸命やっていきたいです。みなさん、ふがいない私だけど、ついてきてくれると嬉しいな。これからも応援よろしくお願いします!」


 頭を下げる糸島ルカ。一瞬静まりかえったあと、会場にはルカっちを応援する大声援が響いた。糸島ルカは涙が出ているのに満面の笑みで「ありがとう!」と大声でみんなに応えていた。


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