第18話 公演帰り

 劇場公演では何曲かやった間にメンバー何人かで話すMCがある。この日は露木アンが司会で、糸島ルカ、後藤桃でMCが始まった。


「今日のMCは、質問コーナーです。ホームページに寄せられた質問に回答します」


 露木アンが紙を広げて読み出した。


「ルカっちに質問です。普段からハッピーばっかり言ってるんですか?」


 会場が笑いに包まれる。なぜか、露木アンが答える。


「ルカっちは普段から言ってるねえ。ハッピーキャラ守ってる」


「キャラとか言わないで。普段からハッピー探ししてるんだよ」


 糸島ルカはまじめに答えた。


「へぇ、ポリアンナだ」


 後藤桃が昔アニメにもなった物語を出してきた。


「ポリ…何?」


「知らないならいいや。リアル・ポリアンナ・ルカ」


「変な名前で呼ばないで」


 ルカが嫌がると会場が笑いに包まれる。


「名誉な名前だよ」


「ならいいや。だって、ハッピーなことを見つけたら私もハッピーになれるでしょ?」


「さすがハッピー脳」


 露木アンがつっこむ。


「なによそれ。まあ、事実だからいいか」


 なぜか糸島ルカは偉そうなポーズをとった。


「というわけで、ルカっちはいつもハッピーでした」


 露木アンがまとめた。


◇◇◇


 私、吉川実香は公演が終わったら、新田君と別れてすぐに関係者出口に向かう。そこで、春島珠子と合流し、帰り道を歩いていた。


「珠子、今日のMCで言ってたけど、KIPではいつもハッピー言ってるの?」


「うん。MCのネタにもなるしね。今日もハッピー見つけたよ」


「え?どんな?」


「親友が幸せそうにカップルシートで来てた」


「何よ、当たるためには仕方ないでしょ」


「ふふ。でも、新田君と仲良くなってほんとにカップルになりそうじゃない?」


「あー、無い無い。新田君さあ、私より珠子に興味津々だから」


「へ!? 珠子じゃなくてルカでしょ」


 珠子は変な声をあげた。


「違うよ。ルカじゃなくて珠子。ちょっと聞かれたんだ、珠子のこと。春島さんはしゃべるの苦手なのか、とか。みんなともっと交流したらどうか、とか。趣味は何か無いのか?とかね。彼なりにいろいろやってるんだけど全部撃沈してるって言ってたよ」


「撃沈……」


「ま、無理なんだけどね。しゃべったらばれちゃうし」


「……そうだね。出来るだけ低い声出すようにはしているけど。油断するとこの声出ちゃうし」


「やっぱり、明かす気は無いんだ」


「うん。難しいかな」


「いろいろ面倒なことも起こりそうだしね」


 珠子はこの学校に入るときに、正体を隠すことに決めた。そのために、いろいろと大変なこともあるが、正体を明かしてたらもっと大変なこともある。私も隠すこと自体には賛成だ。


「生誕祭、絶対当てるからね」


「うん、当たるといいね」


「あ、新田君も推し設定ルカだって。最初から。だから、当たりやすいと思うよ」


「え!? そっか。そうなんだ」


 珠子はどこか嬉しそうだった。

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