第17話 待ち合わせ

 早速、カップルシートが威力を発揮し、今週末の公演に行けるようになった。俺は吉川実香と劇場近くのハンバーガー店で待ち合わせすることになった。


「お待たせ。待った?」


「いや、今来たところだから。って、今、カップルぽかったな」


「そうだね。今日はカップルに偽装しないと」


「だな」


 別にカップルシートでは付き合っていることの証明を求められるわけではないが、カップルシートだけにカップルに偽装したほうがいいような気がした。


「そうそう、新田君にひとつ頼みたいことがあるんだ」


「何だ?」


 吉川は真剣な顔だ。


「来月、ルカの生誕祭が開かれるでしょ?」


「そうだな」


 生誕祭はメンバーの誕生日を祝う公演だ。公演の最後に誕生日を祝うイベントが行われる。


「私ね、どうしても入りたいんだ。だから、新田君のチケットセンターの推しメンバー登録をルカにしておいてほしいの」


 生誕祭の当たりやすさは推しメンバー登録によるとの噂があった。カップルで申し込むんだから、2人とも糸島ルカにしておくのが一番だろう。


「ああ、それは問題ない。俺、最初からルカっちに設定してるから」


「え、そうなの?」


「当たり前だろ。箱推しだけど誰か一人選ぶってなったらやっぱりルカっちだから」


「そうなんだ。だったら結構期間も経ってるね」


「うん。半年近いかな」


 推しメンバー設定が長いとそれだけ当たりやすくなるという噂もある。


「じゃあ、可能性見えてきたね。ぜっっっったい入りたいの。最初の生誕祭だし」


「だな。だったら、生誕祭前は申し込まないようにしないと」


 いったん公演に当たると一週間は当たらないという噂もある。生誕祭前日に公演に入ったらもう可能性はゼロだろう。


「わかってる。申し訳ないけどその期間は申し込まないから」


「俺も生誕祭には入りたいからもちろんいいよ。あ、そろそろ行かないと」


 俺たちは劇場に急いだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る