第16話 カップル
──11月、俺は兄から驚くべき事を告げられる。
「ファミリーシートはもう申し込まないから。公演行きたいなら自分で取ってな」
「え、なんで? もう公演行かないのか?」
公演の倍率は相変わらず高い。ファミリーシートを使わないとなかなか当たらないはずだが。
「いや、公演は行くよ。実はな、今後はカップルシートを申し込む」
「カップルシート!?」
カップルシートは男女で申し込む席だ。これもやはり倍率は低い。狙い目の席だが、そもそもカップルでアイドルの公演に行く人は少ない。アイドルオタにはハードルが高い。兄ももちろん彼女は居ないはずだが?
「まさか……」
「いやあ、実は大学でアイドル研究会に入ってな。そこの女子と仲良くなったんだ」
「彼女か?」
「まだ彼女じゃ無い。けど、KIPの公演に入ってみたいって言ってたから誘ってみたんだよ」
なるほど。そういう事情なら仕方ない。俺は快く了承した。
しかし、困ったな。もちろん、単独で公演に申し込むしかないが、倍率は相当上がっていると思う。
翌日の学校で吉川実香にどれぐらい公演に当たっているか聞いてみた。
「そうだね……2週間に1回ぐらいかな。全然当たらないよ」
やはり総選挙以降、後藤桃の人気が上がってきたこともあって、なかなか公演が当たらなくなっていた。うーん。
「どうしたの?」
「いや、実はな……」
俺は吉川に兄の事情を話した。
「へえ。お兄さんもやるじゃん。うらやましいねえ」
「はぁ。でも、これから俺も公演になかなか行けないな」
「すっかり、KIPにハマったんだねえ」
確かにそうだ。もともとは兄に誘われて行っていたKIPの公演も積極的に行きたいと思うようになっていた。
「まあな。今や公演が一番の楽しみだから」
「そっか。じゃあさ、私とカップルシートに申し込んでみる?」
「え?」
驚いて吉川を見る。
「お兄さんだって彼女じゃない人と申し込むんでしょ。付き合ってなくても申し込めるんだからさ。協力しようよ」
「俺は正直助かるが……。いいのか?」
学園のアイドルが俺と一緒にカップルシートで申し込むなんて。変な噂が立ったら吉川に迷惑がかかりそうだが。
「いいよ。私も助かるし。ただし、私は行ける公演は全部申し込むから。基本的に全部の公演に行く準備しておいてよ」
「……分かった。公演がある日はできるだけ予定空けておくようにするよ」
といっても、帰宅部だし元々予定があるわけでも無い。問題は無いだろう。
「お願いね。あ、連絡先交換しとこうよ」
というわけで俺は吉川実香と公演に行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます