第12話 研修生

 ──佐藤奈美。KIPの研修生。KIPは正規メンバーが8人。そして研修生が4人いる。通常、公演は正規メンバーが出演するが、何か他に仕事が入ったり、体調不良だったり出られない場合には研修生がその穴を埋める。


 研修生も最終オーディションに合格したメンバーたちだ。だが、その後の正規メンバーには入ることができなかった。研修生は正規メンバーのどこのポジションで出番が来るかは分からないから常に複数ポジションの練習が必要だ。苦労が多い割にはメディア露出は少なく、報われないことが多い。そのような不遇さから根強い「研修生推し」のファンも居る。


 佐藤奈美は研修生では一番人気があるメンバーだと言うことは俺も知っていた。ときどき、公演でも見たことがある。だが、やはり正規メンバーのパフォーマンスと比べると一段落ちるかな、というのが正直な感想だ。その佐藤奈美に投票を一本化しようという動きがあるのはなぜなんだろうか?


「要は現在のKIPをどう思うか、ってことなんだよ」


「どう思うかって、どういうことよ」


 吉川がムっとした顔で言う。


「KIPは公演を開始してから半年ほど経った。しかし、まだデビューの日程も決まっていない。メディア露出も低く、目立った人気メンバーもいない。要は運営は何をやっているんだという批判があるんだ」


 もちろん、俺の意見じゃ無くてネットの声だけど、と奥山は言い訳した。


「それは……まあ、分からないことも無いけど」


 他のグループは公演開始後、比較的早くCDデビューできたと聞く。KIPは未だにデビューの予定すら決まっていない。運営を批判したい気持ちは俺にもあった。


「ルカっちはセンターだ。センターに票を入れるって事は運営を信任したってことになるよな」


「まあ、そう言えないことはないけど」


「だから、運営への抗議の意思として佐藤奈美に入れようという話が出ているんだ」


「そんな……」


 吉川が不満そうに言う。


 いつの間にか前の席に帰ってきていた春島さんは頭を伏せて寝ているようだった。

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