第二章 総選挙

第11話 そろそろ

「そろそろだな」


 二学期が始まって最初の昼休み、奥山正樹と一緒に弁当を食べてるとそんなことを言い出した。


「何がだ?」


「何がって総選挙だよ。JIP総選挙」


「あー、あれか」


 JIPグループが年に二回、春と秋に行っているアイドル人気投票がJIP総選挙だ。誰が一番人気があるかをファン投票によって決める。テレビでも中継される大イベントだ。この上位メンバー8人がJIP Japan Idol Project メンバーとしてシングル曲を歌う。JIPのシングル曲はタイアップも多く、常に大ヒットだ。下位でもランクインしたメンバーはカップリング曲を歌うことができる。


「あれかって、お前も投票券あるだろ」


「え? そうなのか?」


 奥山に言われるまで全く気がついていなかった。


「お前、チケットを買うときにモバイルチケット会員に入っているはずだ。あれは1票あるぞ」


 最初に劇場に行くとき、兄に無理矢理入らされたやつだ。


「知らなかった」


 そこに吉川実香がやってきた。


「そのほかに各グループのCDに同封された投票券、ファンクラブ会員投票券があるよ。奥山くんは投票券を結構持ってるんじゃない?」


「まあな。JIPのCDも結構買ってるし、もちろんファンクラブ会員だよ」


「私もそこそこあるんだ。で、誰に入れるの?」


「うーん…まだ決めてない」


 奥山は悩んでいるようだった。


「じゃあさ、ルカに入れようよ!」


 さすが、吉川。自称ファン一号。きっと全票を糸島ルカに投票するのだろう。


「うーん、ルカっちでもいいんだけどさ。俺もKIPには頑張って欲しいし。でもなあ」


「ん、どうした?」


「KIPは出来て日が浅い。他のグループと比べたら人気が無いんだ。だから、ランクインの32位以内に入るのは良くて1人じゃないかな」


「そうだろうね。だから、KIPファンの力を合わせて誰か1人に集中した方がいいと思う」


「うん、そうだよな」


「だから、センターのルカでいいでしょ」


 吉川がグイグイくるが、奥山は渋い顔だ。


「そういう意見も分かるよ。でも、ネット上では別の意見もあってね」


「ルカ以外で誰が居るのよ」


「それが…佐藤奈美という声があるんだよ」


「佐藤奈美?研修生の?」

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