第9話 放課後

 放課後、今日もKIP劇場では公演が行われる。私、春島珠子は糸島ルカになるために吉川実香とともに劇場に急いでいた。実香は今日の公演チケットは外れて劇場には入れないが、いつも劇場までいつも付いてきてくれて、ロビーで中継映像を見てくれている。


「で、どうだった? 新田君の感想を聞いて」


 実香はいじわるっぽく尋ねる。


「もう照れまくりだよ。だって、あんなに褒めてくれるって思わないし」


「フフ、だから言ったでしょ。公演に来た人はみんなああ思っていると思うよ」


「新田君にルカは私だって言って無いよね?」


「言ってないって。だからお世辞とかじゃない。彼の正直な感想だと思うよ。いい加減、センターには自信持って」


「うん…」


 新田君の言葉を聞いて、自分がセンターをやってもいいんだって少し思えたのは確かだ。あまりに実香がしつこく聞くから思わず袖をつかんで「やりすぎ…」と言ってしまった。


「でも……」


「でも、何?」


「あそこまで言ってくれるのに私を推してくれないんだなって」


 べた褒めだったと思う。他のメンバーと比べても熱量が違った。でも、推しでは無いと彼は言う。


「アハハ、そうだね。箱推しって言ってたね。それにセンターはファンがいるから推さないって言ってたし」


「私、そこまでファン居ないのにな…」


 ほんとにそう思う。他のグループではセンターは一番人気か二番人気。でも自分は真ん中ぐらいだろうか。魅力的なメンバーが多いKIPでは仕方ないと思う。


「推してもらえる人、増やしたい」


「そうだね。じゃあ、まずは新田君をルカ推しにしようよ!」


 実香はニヤニヤしながら言う。でも、それができないとファンは増やせないよね。


「うん。頑張る」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る