第7話 糸島ルカ

 私、春島珠子は糸島ルカとしてKIPのセンターに立っている。KIP劇場の渡辺支配人が私はセンターに指名したときは本当にびっくりした。てっきり、後方で踊ることになると思っていたのに。


 そのときのメンバーの空気は正直微妙だったかもしれない。表だって反対する子は居なかったが、「おめでとう」と言ってくれたのはキャプテンの千島夕子ちゃんだけだった。センターを他のメンバーに代えてもらえないか、渡辺支配人に相談したこともあったけど、もう決まったことだから、と取り合ってくれない。でも、そのうち交代するだろうから、それまではしっかりやろうとより練習に励むようになった。


 あれから三ヶ月ほど経つが、未だにずっと私がセンターだ。メンバーがどう思っているかは分からないが、ネットを見ると私がなんでセンターなのかという声も時々見かける。そうだよね、保田暁美ちゃんのようにスタイルがいいわけでも無いし、神代梨奈ちゃんのようにダンスも上手くないし、後藤桃ちゃんのようなかわいさも無い。なんで私がセンターなのか、その理由は未だに分からない。


 私のファン一号を自称してくれる実香は私がセンターだと言ってくれる数少ない人だ。


「珠子がセンターに一番ふさわしい。と私がどれほど言っても信じてくれないしね」


「ごめん。実香は身内みたいなもんだから」


「まあそれもそうか。じゃあさ、彼に聞いてみようよ」


「え、誰?」


「今日、来てたの気がつかなかった?」


 やっぱりそうだったのか。教室ですぐ後ろの席に座る新田君。今日の公演に似てる人がいるなって思ったけど本人だったとは。


「新田君が今日公演観に来てたんだ。お兄さんに連れられて観に来てたらしいよ。彼はアイドルに詳しいわけでも無い、言わば一般人。だから感想を聞こうよ」


「嫌だよ。絶対センター代えた方がいいって言うに決まってるよ」


「そんなことないと思うけどな。劇場に実際に観に来た人はみんな珠子のセンターに納得してるよ」


「それに、聞けないよ。正体明かすつもりは無いし……」


 私は学校では糸島ルカではなく春島珠子。KIPのメンバーは本名のまま活動しているメンバーもいるが、芸名のメンバーもいる。今は個人情報を明かすと危ない時代だ。だから私はデビュー時に芸名を選択した。それに私の本来のキャラを学校でそのまま出すのは危険だということを身を以て経験している。だから、学校では新しい「春島珠子」を演じているのだ。


「わかってる。正体明かせなんて言わないから。私が新田君に聞くから席に座って黙って聞いてればいいよ」


「はぁ……」


「逃げちゃだめだからね」


月曜日が憂鬱だ。

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