第6話 吉川実香
私、吉川実香は公演が終わってある場所に向かった。そこは熊本城アリーナの一角。関係者出入口だ。ネットにあがった今日の公演の感想を見ながら時間をつぶす。やっぱり、センターの糸島ルカの話題は多い。すっかり人気者になっちゃって。でもそれを本人はなかなか認めようとしないけど。
1時間ほど経過するとようやくメンバーたちが出てくる。
「あ、実香。久しぶり!」
メンバーたちは次々に声を掛けてくれる。私も彼女たちと一緒にオーディションを受けたから顔なじみだ。最終審査まで残ったから知り合いも出来た。それに公演終わりはいつもここでルカを待ってるから、すっかりなじんでしまった。
「ルカ!こっちだよ」
糸島ルカに声を掛ける。だが、そこに居たのは眼鏡とマスクを掛けたルカだった。
「今はルカじゃなくて珠子だよ」
糸島ルカこと春島珠子。彼女は私の幼なじみ。物心ついたときから一緒に遊んでいた親友だ。中三のときに私がKIPのオーディションを受けようと誘った。珠子は乗り気じゃ無かったが、2人で最終審査まで進んだときには揃って合格するつもりだった。でも、結果は珠子だけが合格。私は落ち込んだけど、審査のときの珠子やみんなの輝きを見て、正直この結果は予想していた。やっぱり、選ばれる子は何か光るものを持っている。私にはそのようなものが無かった。
だから私は珠子を応援することに決めた。私の夢は珠子に託した。ファン1号と自称して、できるだけ公演に応募している。最終審査に残って、珠子の関係者として少し世話を焼いたりもしてるけど、チケットの優遇は無い。最近はチケット倍率も高くなり、今日の公演も久々に当たった公演だった。
「今日の公演も評判いいみたいよ」
「うん……」
珠子は何か元気が無い。
「どうしたの?」
「うーん、やっぱり私がセンターでいいのかなって。他のメンバーはすごく輝いているのに、私が足を引っ張っているような」
「まだそれ言ってるの」
センターに決まってから珠子はこればかり言う。彼女はダンスも歌もそれほど上手いとは言えない。メンバーになった当初はいつも居残りでダンス練習していた。ダンス経験が無い彼女は他のメンバーと違ってゼロからのスタートだったからだ。
しかし、今日初めて公演を見た人は他のメンバーと経験差がそれほどあるとは気がつかないだろう。彼女は昔から努力家だ。少しずつ上手くなったダンスはいつの間にか他のメンバーに並び、そして追い越そうとしている。私にはとても出来ないレベルで努力している珠子を心配しつつも尊敬していた。
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