第3話 チケット

「おい、潤。当たったぞ!」


 木曜の夜。のんびりリビングでスマホを見ていると兄の聡が大声を出す。


「何がだよ」


「ファミリー席だよ。KIP!ようやく見れるぞ!」


 マジか。


「土曜17時!忘れんなよ。2人じゃないと入れないから。あ、身分証として生徒手帳もってこい」


 めんどくさ!小説でも読もうかと思っていた俺の土曜の夜が……。

 まあ、でも奥山に自慢できると思えば悪くは無いか。


◇◇◇


 次の日の昼休み。俺は奥山にKIPの劇場に行くことを話した。


「えー!いいなあ。実は俺も応募はしてるんだかなかなか当たらないんだよ」


 やっぱりそうそう簡単に当たらないのか。


「でも俺は曲も全く知らないからな。楽しめるかな」


「もちろん。今のKIPは独自の曲は無いから全て先輩の借り物だ。だから知っている曲も結構あると思うぞ。それに知らない曲でもあの雰囲気は絶対ハマると思う」


「そういうもんかね。楽しめることを期待しておくよ」


「誰が推しになったか教えてくれよな」


「推しねぇ。一回見て推しが出来るかどうか」


 そんな馬鹿騒ぎをしていると吉川実香が近づいてきた。


「え、KIPの公演行くの?」


「新田がな。俺は外ればっかりだよ」


 奥山が頭をかく。


「アハハ。倍率高いもんね。新田君、アイドルに興味あったんだ」


「いや、全然。兄に連れられて行くだけだ。吉川はアイドルに興味あるのか?」


「まあね。アイドル見てると元気もらえるから。せっかく熊本に出来たんだし、KIPにはたまに行ってるよ」


「へえ~」


「是非楽しんでね。後で感想聞かせて!」


「おう!」


 吉川実香がアイドルに興味あるとは思わなかったな。やはり可愛い人はアイドルを参考にしているのだろうか。そんなことを思っていると、前の席に春島さんが帰ってきた。休み時間はほとんど席にいないから、あまり話すチャンスも無い。


 でも、吉川がアイドルに興味があるっていうのなら、仲がいい春島さんも同じなのかもしれないな。


「春島さんもアイドルに興味ある?」


「え!」


 一瞬、春島さんは驚いた表情を見せたが、静かに首を横に振った。

 今日も撃沈か。


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