第2話 兄
「ただいま」
眠たい授業を何とか切り抜けた俺は家に帰ってきた。俺があの高校を受けたのは家が近く徒歩で行けるからだ。ギリギリまで寝てもいいのは素晴らしい。今や俺の趣味は睡眠と言ってもいいだろう。
「おかえり、潤。ちょっといいか」
声を掛けてきたのは俺の兄である
「なんだよ、俺は疲れてるんだから手短にしてくれ」
「まあ、待てよ。お前週末は暇か」
「週末?」
俺は帰宅部だし、趣味も無い。あえて言うなら図書館で借りた本を読むか、アニソンを聞くことぐらいだ。もちろん、彼女も居ないし週末は常に空いている。だが、面倒ごとはごめんだ。
「何をするかによって暇かどうか決まるな」
「つまり……暇ってことだろ。じゃあ、予定空けといてくれよ」
「……なんだよ空けといてって」
微妙な言い方だな。何か嫌な予感がする。
「実は、KIPのチケットに応募しようと思ってな」
こいつもアイドルにハマっているようだ。
「ああ、頑張ってな」
「ちょっと待てよ。お前の力がいるんだよ」
なんでチケットを取るのに俺の力がいるんだ。俺の名義でも取ろうと言うんだろうが、そういうのは本人確認が厳しくなった今では難しいはずだ。
「何するんだ?」
「これだよ。ファミリー席」
そういって聡はスマホを見せる。KIPのチケット案内のページだ。それによるとファミリー席というものがあるらしい。家族で応募する席だ。
「実はKIPのチケットに応募しているんだが、なかなか当たらなくてな。だが、ネットの情報によるとこのファミリー席は倍率が結構低いらしい」
まあ、ファミリーでアイドルを観に行くやつは少ないだろうな。
「兄弟でもいいのか?」
「ああ。同居していればOKだそうだ。どうしてもKIPの公演に行きたいんだがとにかく当たらん。だからこのファミリー席に賭けたい。もし当たったらでいいから一緒に行ってくれないか」
「うーん、どのくらいの倍率なんだ?」
「一般席は10倍と言われているな。ファミリー席なら5倍ぐらいか」
結構、人気あるんだな。だが、5倍でもそれなりに高いし、大丈夫だろう。
「分かったよ。当たったらな」
「すまん。チケット代は出すし夕飯もおごるから」
「当たり前だ」
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