第17話 自分にできる事はなんなのか
まだ始まったばかりで、天使病の治療方法も探している最中ではあるが、それぞれが頑張る姿を施設内で見かける度に俺の心は熱くなる。
コフィンはもちろん、デスもイリスもメルルもラズも、それに新しく仲間になった天使と悪魔たちも。お互いが協力しあって目標に向かえる組織だと実感している。
そこに人間とか天使とか悪魔とか、そういった種族の壁はない。
だからなのか、とても居心地がいい。幼馴染……恋人がいつも隣にいるからというのもあるが。
「テオが頑張るのは分かるけど、でも無理はしないでね?」
「筋トレは趣味だから平気だろ」
「だから余計心配なんだよ。テオって夢中になると周りを見なくなるでしょ?」
「そうか?」
「お昼ご飯を忘れてた人に言われたくないなぁ」
今度は口を尖らせてしまった。こっちのエレナも可愛い。
恋人になってからというもの、どうもエレナが可愛くて仕方がない。
俺は恋人っぽいことをあまり理解していないし、この施設にいると慌ただしいので、エレナとデートをしたことがない。エレナはデートしたいのだろうか。
「変なこと考えてたでしょ?」
「……変なことではないけど」
じろりという視線が痛い。
誤魔化すようにエレナが持ってきてくれたおにぎりを食べる。程良く塩気の聞いたおにぎりが体に染みわたる。
「ラズくんの様子でも見てこようかなぁ」
「え……」
どうしてラズなのか、俺は疑問を抱くと同時に苛立った。何故だろうか。
無意識にエレナの腕を掴んでいた事に驚いているのは俺だ。
「ヤキモチ妬いたでしょ?」
見透かされたように笑うエレナは、悪魔のようだった。
先ほど考えていたことを言わなければラズのところに行く、そんな顔をしている。
「エレナはさ……デートとか、したいのかなって、思ってただけ、なんだが」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
そもそも俺はちゃんと言葉を発せられているのだろうか。
「……したいよ。でも、今はそれよりやることがあるでしょ?」
エレナは俺の手を包んで微笑んでくれた。
「……なら、やるべきことをやり終えないとな」
「ふふっ、頑張る目標ができたねっ」
やってることに対してのご褒美がそれでいいのかと少し照れてしまうけれど、エレナが嬉しそうに気合を入れているのを見たら、それでいいのかと思えてしまった。
「休憩終わるまで、いてもいい?」
「終わってもいていいけど」
「えへへっ、でも終わるまでにするね。私もやることあるし」
エレナは嬉しそうに俺の肩に寄り掛かる。いつから俺の肩が好きになったのかというくらい、毎回同じ位置に頭を乗せる。
汗臭いのが移っても知らないぞ。
っていうか、おにぎり食べ辛いんだけどな。
◆◇◆
おにぎりを食べ終えてトレーニングを再開すると同時にエレナは部屋を出て行った。
次は腕を鍛えるか、と腕用の台に乗ってトレーニングを始める。
すると出入り口の扉が開く音がして、俺は視線を向けた。
「やっぱりいた」
「ラズ? ここに来るの珍しいな」
「まあね」
ラズは一直線に俺の隣にある同じ台へ来て、台を観察したあとそこに座った。そこは椅子ではないのだが、ここを使うのは俺くらいだから別にいいだろう。
「これ、どうやるの?」
「は……?」
「ぼくだってやるときはやるんだよっ。……半分はメルルにバカにされたからだけど」
ラズは生まれたばかりの悪魔だった。だから知識のないラズはメルルにバカにされることが多い。負けず嫌いな性格もあって見返してやろうと身体を鍛えに来たようだ。
「ここの取っ手を掴んで下ろすだけなんだが、まずは……」
「これを下ろす……ッッ!? 重ッッ!? なんでこんなおもりついてるのッッ!? バカじゃない!?」
「最初はストレッチをしてからの方がいいんだが、やる気があるなら教えるが?」
立ち上がってラズに怪我がないか確認しにいく。ただ驚いただけのようだ。
悔しそうなラズの瞳が俺に向けられる。
「やればテオさんみたいになれるんでしょ? ならやる」
「いや……そうだな、すぐには難しいけど、でもラズならできる」
俺の身体を見てやる気を出したラズは俺の指示を待つように立ち上がって視線を向けている。
そういえば、最初に身体が武器になることを見せたのは俺だったか。
「じゃあまずはストレッチからだな」
「うん。よろしく」
俺に教わる気満々だったな。断っても駄々をこねるつもりだっただろう。
でも最近のラズは『嫌』と言うことが減って来た気がする。前はもうひとつの人格も出ていたが、最近は落ち着いたラズしか見ていないな。天使の成長速度は人間と違って大分早いようだ。
弟ができたみたいでなんだか俺までやる気になってしまう。
(今度ラズの服も用意してもらうか)と考えながら、ラズに身体を鍛えることの知識から教えていくことになった。
「今日はこのくらいにしとこう」
夕方になったところで、そろそろおしまいにするかと手を叩いてラズに合図する。
「……鬼、悪魔、下道……っ」
そんなにハードにしたつもりはないのだが、ラズにとってはとてもきつかったらしい。トレーニングメニューはしっかり考えないとだな。
「まだ初日なのに弱音を吐いてたら、俺みたいになれないが?」
「……わかってるよっ」
ラズは備え付けの椅子に座って汗を拭きながら隣に座った俺を睨む。
俺もタオルで汗を拭きながら休憩する。
息を整える音だけが響いても、それが気まずいとは思わない。
「テオいる!?」
「エレナ? そんなに慌ててどうしたんだ?」
勢いよく扉が開いて、そこから入って来たエレナが俺の前へ駆けて来た。
長い距離を走って来たのか呼吸が乱れている。
俺は立ち上がってエレナを安心させる様に肩に手を添える。
「大変っ、なのっ、コフィンがっ! コフィンが倒れちゃったっ」
「っ!? コフィンはどこにいる?」
「案内するねっ」
「ぼくも行く」
エレナが走って部屋を出て、俺とラズはエレナのあとについていく。
一体コフィンに何が起こったんだ。
無事であってくれと願いながら、俺はエレナの後ろを走り続ける。
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