第16話 CLOVER±H始動
「エレナはいいか?」
「テオがやることを支えればいいんでしょ?」
「そうだな、俺のことを1番知っているのはエレナだし」
「そうだよ、私が1番テオのことを知ってるの。だからまかせてっ」
二人三脚、いやここにいる全員を合わせるともっとたくさんの脚で歩いていくことになる。
全員の顔を見渡していると、不思議と勇気が湧いてきた。
「協力する。どうせ帰る家なんてないんだし」
俺はみんなが手を触れられるように、手のひらを下にして差し出した。
すぐにエレナが上に手を乗せてくれて、メルルがすかさず乗せて来た。メルルにつれられたラズもおずおずと乗せて、その上からコフィンが押すようにのせる。優しく包み込むようにデスの大きな手が乗っかって、1番上にはイリスの小さな手が乗る。
「『
デスのやんわりとした言葉に、全員の視線がデスに向く。怪訝な声がいくつか漏れたのが聞こえた。当然俺も漏らした。
気味悪そうにしながらみんな手を離していった。
「
自信作です、みたいに誇らしく言われても、俺にはどう反応していいのか分からなかった。
「さすがデス様! カッコイイです!」
「わたしはもっとカワイイのがいいですね~」
「どうしてCLOVERなの?」
「CLOVERはみつばだからじゃないかな?」
「お主らしくてよいのではないかのぅ」
賛否両論、といったところだろうか。
まあやることは変わらないのだし、俺はなんでもいいけど。
「まずは、拠点作りからですかね。それとそれぞれの子供に周知する必要があります。人手も必要そうですし、やることはたくさんありますが……」
デスは今後のことを考えながら、みんなを見渡している。
俺は少しでも早く天使病をなくしたい。
天使になることは、案外痛かった。肉体的にも、人間の視線的にも。
俺はもう純粋な人間としては生きられなくなってしまっただろうから。
「テオ? 頭いたいの?」
俺の隣で不安そうに見上げてきたエレナと視線を合わせる。
今までと違う存在のように見えて、俺は首を横に降る。
「いや、どっちかっていうと、胸が熱いかな」
「テオは昔から世話焼きだからねっ」
くすくす、と笑うエレナの言葉にそうなのだろうかと思いながら、目の前で話し合う死神たちを見つめる。
ああでも、そうかもしれない。
この中にいると、とても胸が熱くなる。
それに、恋人が隣にいるから、こんなにも心が熱いんだ。
◆◇◆
人間の手が入っていない森にCLOVER±Hの拠点を作った。
人間が通えるように陸地に建物を建て、空からでも入れるように塔の部分も作った。
ちなみに建物を作ったのはイリスの魔法で。
以前に俺たちが暮らしていたの町の3倍はある大きな拠点だ。手作業で建てていたら何年も経ってしまうし、人間以外からすれば魔法で建物を作るのは常識のようだった。
建物がある部分は最低限だけ草木を整備して、外から見ても立派な城だ。ちょっとした隠れ家のような雰囲気でもある。
CLOVER±Hである俺たちがまず始めたのが、天使病になった人間を連れて来ること。
これは天使に任せた。
流行り病というだけあって、用意した部屋が埋まってしまうほどだったが、悪魔の力を借りて拘束させる。
その間に俺とコフィンで欲望を増加させる方法を探していた。
と言ってもほとんどはコフィンが力を最大限に発揮できる方法を試行錯誤しているのだけど。
「あ……いいよ、この感じっ、いいっ」
コフィンの力を発揮するにはコフィンの興奮を促す必要があるらしい。
魔法で映像を見せたり、薬を使ってみたりと様々な方法を試している。
「あ……っ、これじゃ……だめっ! 前の方がよかったよぉ!」
コフィンは研究担当の悪魔と協力して実験に育んでいる。力の上昇具合をデータとして管理して、少しずつ改良していく。だけどまだ最大限の力を発揮するのには時間が掛かりそうだ。
毎日必死に頑張るコフィンを見ていて、俺は何もしないという選択肢はなかった。
俺がわがままを言って作ってもらったトレーニングルームにこもることが多い。
イリスに用意してもらった伸縮性のあるズボンとランニング姿で腹筋を鍛える台に乗る。
「98、99、100っ! ……っうし!」
キリのいい回数までこなしたので、一旦休憩しようと台から降りる。タオルを取りに鏡の近くにある椅子へ向かった。鏡に映った自分を見れば前より少し筋肉がついた気がする。
備え付けの椅子に座ってタオルで汗を拭く。運動してかく汗はいいものだ。たまにはラズを誘ってみるか、なんて思いながらドリンクを飲む。ちなみにこれもイリスが用意してくれたトレーニング専用だ。神様はなんでもできるらしい。
ドリンクを飲みながら汗を拭いていると、出入り口の扉が開いた。
「テオ、まだやってるの?」
「今休憩したところだ」
「もうお昼だよ。どうせまだやるだろうから、ご飯持ってきたの」
壁掛け時計を見ると正午を半分過ぎていた。
たしかに腹が減ったかもしれない。
エレナは包んであるおにぎりを椅子の横にあるテーブルに置いて、俺の隣に座った。
じろじろ、と視線を感じてエレナと視線を合わせる。
「どうした?」
「……私もムキムキになろうかなぁ」
「こうなるのには時間がかかるんだ」
「そっかぁ。じゃあさ、ストレッチとか教えてほしいな」
「ダイエットでもするのか?」
十分細いのにな、と思いながらドリンクを飲むと、肘で突かれてしまった。
エレナを見るとハムスターのように頬が膨らんでいる。うん、これはこれで可愛い。
「テオたちが頑張ってるから、私だって頑張りたいんだよ」
エレナは食事を用意してくれたり、掃除をしてくれたり、今だって様子を見に来てくれた。それも頑張っているうちに入ると思うのだが、どうやらムキムキになる方面で頑張りたいらしい。
そんなに必死に見つめられると断るに断れない。
「ムキムキなエレナは見たくないな。でも基礎なら教えられるから、今度一緒にやるか?」
「さすがテオっ、教えられる幅が広いね」
「そりゃあ、赤点しか取らない人に教えたいからな?」
またハムスターみたいになった。冗談が通じないな。だから赤点しか取れないんだぞ。
でもこうして一緒に充実した日々を過ごせて、俺は嬉しい。
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