第11話 小鳥のさえずりに込められた想い
「リリィッ」
「動けないようにしてるだけ。テオはデスのところへ」
「ああ」
リリィに殺意はないのだと安心して、俺はラズの傍から離れて階段の上にいるデスたちへ駆けて行く。
轟音が響いているが、何が起こっているのか上りきるまでその様子は見えない。
何段あるんだこの階段は。お前らと違って俺は翼がないし魔法も使えない。1歩1歩上っていく身にもなって欲しいもんだ。
「きっつ……」
あと少しのところまで来て足が重くなった。
自分の限界なのか、ラズに神経を斬られていたのか怪しくなるほどに、たった1歩上がるのが難しくなる。
だけど、止まりたくないと必死に足を動かす。
足を止めたくなるほどの痛みを感じる。
だけど、
「こんなところで止まってんじゃねえ!」
止まれない理由が俺にはある。
だから俺は階段を上り続ける。
上を見て、1歩ずつ、確実に。
息を切らしながらも、階段を上りきった。
階段の上まで来たが、目の前に広がった光景は、パレードのように眩しい世界。
「メルルのお歌聴いてほしいのですよ~っ!
メルルの歌に聴き入って動かないデスとコフィンの後姿を、息を整えながら伺う。
「ふふふっ、まさか力を上げているとは思いませんでした」
「絡みついて気持ち悪いー」
洗脳されているわけではなさそうだ。ただ体が動かないだけ、なのだろうか。俺には見えない何かが、2人の体を拘束している?
「あら~? アンコール希望ですか~? 今日は特別ですからね~」
そう言ってメルルは妖し気に笑いながら両手を広げて口を開ける。
「テオさん、メルルさんの声が届かない場所まで行ってください」
「はぁ!? この階段を降りろってか!?」
冗談じゃない。息切れしながらも上って来たんだぞ。それに足が結構痛いんだけどな。
歌を聴くのがダメなら、その前にメルルの口を封じればいいだけだ。
地面を蹴って一直線にメルルに向かって走って行く。
痛みなんて感じてる余裕はない。
ただ、人間の足では声より早く走れないわけで。
「♪~~」
メルルの歌は小鳥のさえずりのように心地いい。なんだか力をもらえるような温かい気持ちになる。
足の痛みを忘れるくらいに体が軽くなった気がした。
だから俺はどこまでも走れる。
「きゃっっ!? どうして動けるんですか!?」
俺はメルルの前に立つと両手を握る。
足の痛みは引いてメルルを見る余裕ができた。
「どうしてわたしのお歌に響かないんですか~!」
やっぱり、メルルの歌は俺が見えないだけで拘束する何かがあるらしい。
でも俺は人間だし、なにより拘束なんかされてる暇はないんだ。
「そりゃあ、アンコールを歌ってくれたお礼をしたいからかな」
俺はメルルの手を握ったまま目を合わせる。
驚いたような大きな瞳は宝石みたいに光っている。
頭1つ分と少しの身長差は近付いて見つめ合うとぶつからなくて丁度いい。
「ど、どうして……」
「俺はエレナのところに行きたいんだ」
「わたしはっ、まだ歌えるんですからね~っ」
口を塞がなければ歌は唄える。
俺の両手はメルルの手を掴んでいて離せない。
ひとつ、塞ぐ方法はあるが。
「ひゃ……っ」
「どうしても、歌うか?」
俺は顔を近付けてメルルに訴える。
これしか方法がないなら手段を選んではいられない。
だけど、メルルの気持まで無視はできない。俺は失礼な人から最低な男になってしまうだろうから。
「ど、どう、しても……う、うた……」
鼻先が少し触れるまで近付く。
近すぎてメルルがどんな顔をしているのか分からない。
ただ驚いたような瞳だけが視界を覆っている。
「だめっ!! そんな近くじゃだめです~~っ!!」
メルルは急に暴れ出す。咄嗟に顔を離したが、手を握ったままだったので、俺はメルルに振り回される。
「あっこら暴れるなっ」
「ひゃっ」
乱暴に手を振りほどこうと動くから、俺は引っ張られるようにして地面に倒れる。メルルを潰さなくてよかったと安心しているが、下にいるメルルは今にも泣きそうだ。心なしか顔が赤い気がするが、どこか怪我しただろうか。それとも熱でもあるのだろうか。
「うう~、責任はとってもらいますからね~~」
「うん? 俺にできることなら?」
メルルの手を引っ張って俺たちが立ち上がると、動けるようになったコフィンが駆け寄って来た。
「メルルちゃん、願いを叶えてあげようか?」
「ひゃ~っ、あなたの力なんて借りません~」
ニヤニヤと笑いながらメルルをからかうコフィンを見たあと、俺は離れた場所にいるデスの様子を伺う。
デスは移動していないが体が動くのを確認している。驚いているようにも見えるが何か体に違和感があるのだろうか。
「テオさん……貴方は……人なの……ません」
ゆっくり近付いてきたデスは小さく何かを呟いていたが、メルルとコフィンが俺の周りで追いかけっこしながら言い争いをしていてよく聞こえない。
聞き返すようにデスを見ると誤魔化すように微笑まれてしまった。
――ドスンッ
と音を立てて、俺とデスの間に何かが落ちて来た。
「……よくもこんなはこびかた……いたい……」
青い色の何かはうめき声をあげながら起き上がる。
そのあとデスの隣に降りてきたのはリリィだ。
どうしてラズが落ちて来たのかは聞かないでおこう。
「あれ……メルル……どうしてそいつのとなりにいるの?」
「え~いいじゃないですか~。エレナちゃんの大切な人はわたしにとっても大切な人なんですよ~」
「まさか……こいし――」
「ラズちゃん~あとでお話しましょうか~」
「え……すごくいやだ」
天使たちの会話は独特でよく分からない。
メルルが立ち上がったラズを見上げながら睨んでいる。蛇に睨まれた蛙というやつだろうか。大きなラズは子供のように怯えていて、見た目からでは判断できない不思議な関係だとその様子を眺めていた。
ラズを睨んでいたメルルは急に俺を見る。
「あ、あの、テオちゃん……」
人差し指を合わせながら、小さな声で俺を呼ぶ。
どうして恥ずかしそうにするのか不思議だが、敵意はないのだと、向けられた視線で感じとれた。
俺はメルルに近付いて、しっかりと目を合わせる。
「メルル、お母様とやらに会わせてくれ」
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