タブレットPC系探偵

「この名探偵、タブレットPCちゃんがどんな事件も華麗に解決しよう!」

「……どちらさん?」

ホームズのような帽子と服。150cmほどの身長。

深夜二時、謎の少女を前に俺は困惑した。


◇◇◇


「さぁマスター!なにか事件はないのか?!」

「はぁ……ねぇよ、そんなの」

彼女は頬を膨らませる。


「えー!じゃあどこならあるんです?!」

「世界中どこ探してもねぇよ。名探偵が出張る事件なんてな」

彼女は俺と距離を詰める。

「世界中ってなんなのだ?!」

「世界中は世界中だよ!」


彼女は少し驚いたようだ。

「あっ……悪いな。急に大声出して」

「い、いや!大丈夫なのだ!」


小さくため息をつき、俺はタバコを咥える。

「俺も憧れてたよ。子供の頃はな」

「え?」

彼女は首をかしげる。

「すまんな。ちょっと話に付き合え」

彼女は首を縦に振った。


「この業界に入って15年。俺も探偵としてデカくなっちまった」

「でも……まぁ仕事は選べねぇ」

俺は煙を吐いた。

「なんでか浮気調査で有名になっちまってな。その依頼ばっかり舞い込んでくる」

「……おれもホームズみたいな服を着てみたいもんだ」

「まぁ、そう思っていたのもとうの昔の話だけどな」

そこまで言って、俺は少女の方を向く。


「ぐー……くー……」

「寝てんじゃねぇか!!!」

「ふわっ!?」

俺が話した時間返せよぉ……


彼女は可愛げに舌を出す。

「ごめんにゃー」

「にゃーってなんだよにゃーって」

まったく――――失礼な奴だ。


「あ、でも一個だけ聞こえてたのあるよ!」

「一個だけ?」

俺は彼女の方を振り向く。


「ホームズのコスプレするのが夢なんでしょ!マスター!」


「あぁ……もうそれでいいよ」

俺はいろいろ諦めた。


「そんなマスターに朗報です」


――――ん?

「フフ……ジャーン!」

彼女は何かを持って、俺に手を突き出す。

「それ、は?!」


彼女が持っていたのは――――ホームズの服だった。

「な、なんでそれを?!」

「私は探偵よ!これくらい当たり前なのだ!」

「あっ、はい」

彼女が差し出した服を、俺は手に取る。


「ほら、早く着るのだ!」

「え、あぁ」

俺は服を羽織る。

その姿は――――あの頃憧れていた探偵そのものだった。


「ほら、パトロール行くのだ!」

「オーケー。行こう」

俺は、なぜか彼女のノリに乗っていた。


◇◇◇


「そういや、君は誰なんだい?」

深夜二時半の屋外。俺と彼女は散歩――――もといパトロールをしていた。

「最初に言ったでしょ!私はタブレットPCなのだ!」

うん。どういう事だ?


「タブレットPCって、俺の?」

「そう!マスターのタブレットPCなのだ!」

――――もしかして。


「ん、どうしたのだ?」

「いや、なんでもないよ」


俺が話し終えた時の彼女は熟睡していた。

じゃあ、なんで『ホームズの服装をしたい』という部分だけ知っていたのか?


――――俺があのタブレットPCでミステリーを見ていたからだ。

でも、最後にミステリーを見たのなんかいつだ?


「あんた、記憶力いいな」

「そりゃあPCだから!当然なのだ!」


「なぁ、タブレット」

「ん?なんなのだ?」

彼女は首をかしげる。

「ありがとうな」

彼女は頬を赤らめる。

「て、照れるからやめるのだ!」


俺は少し表情を緩める。

そして、夜の空気を肺一杯に吸い込んだ。

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