学タブ系ヤンデレ

「ふふふ……今日のお味噌汁はひと味違いますからね……」

目の前の女性が怪しげな笑みを浮かべる。

「ちょっと、『仕込ま』せてもらったんで……」

「うん。まずあなたは誰?」


◇◇◇


私――――潮崎 蛍は、なぜか現れた大人のお姉さんに困惑していた。

「あなたのタブレットです。学校でもらったの、覚えてないですかぁー?」

そういや夏休みが始まる前、先生からタブレットをもらったけども。

でも――――なんでそれが大人のお姉さんに?

そもそもタブレットは鞄に入れて放置してたし。


「あなたは、どこから来たの?」


「えぇー?そぉんなこともわからないんですかー?」

お姉さんは私の耳に囁く。


「製造工場ですよー?」

いやそれは当たり前だろ。


「と、とりあえずいただきます」

私は味噌汁を一口。

――――ん?


「なんか、味が違う」

「気付きましたぁー?」

ねっとりした口調で、お姉さんは話す。

「さっき言ったじゃないですかぁー、『仕込ま』せてもらったって」

そういえば……このお姉さんと似たような人を聞いたことがある。

世の中には相手を愛するあまりヤバいことをしてしまう『ヤンデレ』という人がいると。

私が読んだ記事では、確かスープに……


「まさか!血を入れたの?!」

「私のバッテリーを入れてみましたぁ」

あぁ……それがタブレットにとっての血なんだ。


味噌汁を飲んで、水を飲む。

結構おいしいな、この味噌汁。

黙々と飲んでいたところ、お姉さんがささやいた。


「なにか感想はないんですかぁ?」


「うわっ?!」

お姉さんの言葉に、私は味噌汁を吹き出しそうになる。

「な、なに?」

「まさかぁ、他の人間のこと考えてたんじゃないんですよね?」

――――え?

「いや、あの」

お姉さんは私をにらみつける。


「だったら、あなたの連絡先全部消してあげましょうか?」

「え?」

「知ってるんですよぉ……あなたのSNSのパスワード」

彼女の顔は、獲物を見つけた虎のようだった。


「え、ちょっと、やめ!」

「ウギャアアアアア!」


え、は?

「ナンデナンデナンデナンデ」

「え、ちょ」

お姉さんは絶望しきった顔で言った。


「このサイトはフィルタでブロックされました……?」

あぁ、フィルタリングでそもそもSNSにアクセス出来なかったのか。


……この隙にこいつから逃げよ。

私は部屋から出て、家のドアを開けようとする。

が、鍵は開かなかった。


「え!?」

その瞬間、あいつの声が聞こえる。

「ふふふ……お見通しですよー、逃げようとするなんて」


――――嘘でしょ。

彼女の手に縄が握られていた。

「なっ、何をする気ッ、この変質者ッ!」

私は声を震わせる。


「変な人間のことはもう考えなくていいんですよぉー?」

「もう私が全部やりますからね……」


その瞬間、あいつは走り出した。

そして――――私の目の前で倒れた。


「……はぁ?」

私はしばらくの間硬直した。

そして――――あることを思い出した。


「あぁ……バッテリーを味噌汁に入れちゃったから切れたのか」

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