スティック系関西弁

「たーすけーてー!」

35年以上暮らした家のリビング、部屋の隅に、彼女はいた。

テレビと壁の間に挟まれている、おおよそ9歳くらいの少女。

当然、見覚えなんてない。


◇◇◇


「あんままやったら体いがんどったわ!ありがとな、じいちゃん!」

「あ、あぁ」

テレビと壁の狭間から少女を救出して数分、私と彼女は向かい合っていた。

「君は、誰なんだい?」

「じいちゃんのパソコンや。もう4年前からの付き合いやで?」


――――付き合いやで、と言われても。


「パソコン?君が?」

「パソコンやなかったらあんなところにおらんやろ!」

「第一、この家に忍び込むにしても防犯バッチリやし」

……確かに、この家には防犯設備が張り巡らされている。

じゃあ、この子は本当に?

その瞬間、ピンポンという音が鳴った。


「すいませーん」


「あぁ、すまない」

私は玄関に向かう。


◇◇◇


「ふぅ……いただきます」

私は箸を取り、手を合わせる。

「んー」

彼女は私の目の前の弁当箱を見つめ、質問する。

「なんやそれ?」

「宅配サービスだよ。息子が頼んでくれてるんだ」

「へー」

彼女はまじまじと私の食事を見つめる。

「な、なんなんだい?」

「飽きないの?」

「飽きないよ」

妻に先立たれて4年。自分で料理しようとしたこともあったが、うまくいくことは少なかった。

宅配食も確かにおいしいんだが、久しぶりに出来立てを食べてみたい気も――――


「ねぇ、私がなんか作ってもええか?」


――――え?!

「な、なんで?!」

彼女は首を傾げて答えた。

「検索履歴にご飯の作り方とかあったから、出来立て食べてみたいんかな~って」

私は目を見開く。

「お!的中か!」

「じゃあー……オムライス作るわ!」

――――ど、どういうことなんだ。


「じゃー買い出し行ってくる!」


そう言うと、彼女はこの家を出ていった。


◇◇◇


彼女が家に帰って来てから数分。

勝手にキッチンを使い、彼女は料理を始めた。


「えーっと、卵を混ぜて……」

「バターはこんくらい使うか……」

どうやら順調らしい。


「具材は……まぁこんな感じか」

彼女がキッチンを使い始めてから15分。

私の目の前に、オムライスが運ばれた。


――――うん?


そのオムライスは、どこか見覚えがあった。

「い、いただきます」

スプーンを持ち、口に運ぶ。


「うん……うまい」


「お!ほんまか!」

彼女は明るい顔をして喜んだ。


私はオムライスにかかっているソースを取って、また口に運ぶ。

――――ん?

やっぱり……なにか記憶の片隅になにかが……?


◇◇◇


あたしは、今日ついに念願の人間の体を手に入れた!

――――君は、誰なんだい?


最初はマスターも困惑しとったけど、今はオムライスを美味しそうに食べとる。

――――しっかし、なんであたしはオムライスを作れたんや?


頭ん中に、よーわからん思い出が流れる。

なんか小さい子供がおったり、誰かわからん男にオムライス作っとったり……


「ごちそうさま」


――――お!

「オムライスおいしかったか?」

「あぁ。ありがとう」

マスターに喜んでもらえた!

「ん?」

「どうかしたか?」

マスターの声を聴いた途端、変な予感がした。


――――あの男、若い頃のマスター?


「あぁ、べっちょないで」

あたしは軽く返す。

すると、マスターは少し表情を緩ませた。

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