ホントは神棚じゃなくて自分の机に飾りたい

りりぃこ

まさか、お菓子まで狙われてるというの!?

 我々には三分以内にやらなければならないことがあった。



 それのきっかけはついさっき、本社に勤務する同期から来た内線だった。


「時間がないから手短に言うよ」


「どうしたの急に」


「昨日、本社でバカがトイレ盗撮して捕まったでしょ」


「ああ、あの恥ずかしい事件」


「それきっかけで、急遽偉い人達が、社内検査をしている。他に何か仕掛けられていないか、隅々まで調査されている。その調査が、本社だけじゃなくて支店単位でもされている。だから今日これから、そっちの支店へも偉い人が抜き打ち調査に行くはず」


「別にうちの支店はそちらと違ってやましい事は無くってよ。せいぜい汚えなあ、整理しろよって言われるくらいかしら」


 私は気取って答えた。それを聞いた同期はため息をついてみせた。


「ついでに余計なものを会社に持ち込んでいないかも調べられている。鞄の中までチェックされてね」


「鞄の中?それはちょっと越権行為じゃない?」

 私は文句を言う。


「訴えるなら直接言って。とにかく、うちの本社では阿鼻叫喚だった。うち上司は高級な酒を没収されたと嘆いていた」


「それは没収されて然るべきじゃない?」

 会社に何持ってきてるの?


「漫画本なんか没収された人は数知れず」


 学校の持ち物検査かな?


「てか、本社の人達、暇なの?ちゃんと仕事してる?」


「昼休みは何したっていいでしょ」


 まあね。お酒の人は昼休みに飲んでなきゃいいけど。



「とにかく、忠告だ。そちらも気をつけて」


「気をつけてって言ったって、私は別に」


「お菓子、机に大量に入ってるでしょ?」


 同期の言葉に、私は言葉を失った。


「まさか、お菓子まで狙われてるというの……!?」


「そうよ。業務に必要無いものだからね」


 こうしちゃいられない。


 私は同期からの内線を切ると、すぐに机に大量にあるお菓子の袋を確認する。


「先輩、どうしたんですか?」


 私の鬼のような表情に、後輩たちが数人、がおそるおそる話しかけてきた。


 時間が無いのだ。私はカクカク・シカジカと簡潔に説明する。

 後輩たちは真っ青になった。


「大変。それに先輩つい最近、年に一回しか発売されない幻のチョコ買ったって言ってませんでした?」

「すっごく高級なやつですよね?」

「そうなの。あれを没収されたらもう一年待たないとだめなのに……最悪ビスコ大袋はくれてやってもいいけど、あれだけは死守したい」

「手伝います!」


 力強い後輩たちの言葉。


 私達は必死で隠す場所を探す。


「鞄も見られちゃうんですよね?」

「多分ロッカーも駄目ね」

「あの、棚どうですか?」

「うーん……ちょっと見つかりそう……」


 そうしているうちに、部長が現れた。

「みんな何してるんだ。仕事しなさい」


「部長、ちょっとだけ待ってクダサイ」


 私達はカクカク・シカジカと説明する。


 すると、部長は残念そうな顔した。

「もう遅いぞ。さっき、本社の車が駐車場にあるのが見えた。そうか、そんな抜き打ち調査の為だったのか……」


「そ。そんな」

 駐車場からこの部屋まで、約三分。それまでになんとかできるだろうか。


「先輩、頭を使いましょう!」


 突然、後輩の一人が閃いたように言った。


「囮を作るんです。さっき先輩、ビスコ大袋ならくれてやるって言ってたでしょ。あえて、わかりやすいところにビスコ隠しましょう。そして見つけてもらいましょう!そしたら、一つ見つけた偉い人は、その功績を持って満足して帰るのではないでしょうか」


「なるほど!」

 正直そんなうまくいくか不安だったが、我々には精査する時間が無いのだ。


 私はビスコをわかりやすい棚に隠し、その更に奥に幻のチョコを隠した。



 ちょうど棚の蓋を閉めた途端に、部屋に本社の偉い人が入ってきた。


「お忙しいところ申し訳ない。実はカクカク・シカジカで、抜き打ち調査をすることになって。怪しいものが仕掛けられてないか、不要なものの持ち込みが無いか調べさせてもらいたい」


「ああ、わかりました。少し事務所内散らかっていますが」


 部長はそう言って偉い人を案内する。



 偉い人は、部屋の隅々まで調べていった。


 ロッカー、机、一つ一つ空け、そしてお菓子を隠している棚にとうとう手を伸ばした。


 ――お願い、うまくいって。

 私はドキドキして仕事にならなかった。


「これは、業務に必要無いものですね」

 偉い人は、ビスコ大袋を手に取った。


 よし、それを持って帰ってくれ。


「一つあるということは、まだあるかもしれないですね」


 なんと!人のお菓子をゴキ◯リみたいに言いやがって!


 ああ、やっぱり囮作戦は全然だめだったか。ビスコ大袋じゃ囮には力不足だったようだ。


 とうとう偉い人の手が、幻のチョコに近づいた。


 ああ、もうだめだ、と私が思ったその時だった。


「こ、これは!!」


 偉い人が戸惑いの声を発した。


「なんですかこれ。女のコの人形?」


 え?女のコの人形?

 私は、偉い人の手に持っているものに目を凝らした。


 うさみみパーカーを着て、ピンクの髪色をした目のくりくりした女の子。

 おへそが出ている短いTシャツと、パンツが見えそうな短いスカートを身に着けた、可愛らしいフィギュアだった。


「私のコレクションです。魔法少女ラビット・トットちゃんです」


 そう言ったのは、部長だった。


「あ、えー、これは……」


「見つかってしまったなら仕方ないです。確かにこれは業務に必要の無いものですね」

 部長は寂しそうに顔を伏せた。


 偉い人はコホンと咳払いを一つして言った。

「すみませんが、一旦没収させていただきますね」


「大事に預かってくださいね」

 部長はそう偉い人の目を見つめて言った。




 結局、偉い人はフィギュアを見つけて満足したのか、そのまま帰っていった。

 チョコレートは無事だった。

 部長のラビット・トットちゃんが囮になってくれたのだ。


「部長!部長の大事なものが……」

 私は申し訳なくなって部長に駆け寄った。


 部長は笑っていた。

「いいんだよ。トットちゃんがチョコレートを守ってくれたんだ。それでこそ正義の魔法少女だ」


「部長〜!!」

 私を含め、皆感動していた。




 その後、仕事場に不要なものを持ち込まないように、とのお達しの下、それぞれに没収されたものが戻ってきた。

 勿論、魔法少女ラビット・トットちゃんもだ。


 私達は、部長のラビット・トットちゃんに敬意を表し、支店内の神棚に大事に飾り、チョコレートを供えるのだった。

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