バッファローの群れと宇宙創成に関するいくつかの考察
あやかね
本文
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れはやがて地球を壊し、宇宙を壊し、そのとどまるところを知らない勢いによってついには時空を滅ぼすのである。そう提唱したのは学生アパートの古株である
築四十年はくだらないであろうボロボロのアパートの一室に三人の男がミチミチと詰め込まれている。真夏の夜にも関わらず窓も開けていない所を見ると全員
「つまりね、相対性理論によると運動するものは高いエネルギーを持つんだ。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れはエネルギーの塊となり光を超え、やがては時を超えて過去と未来も破壊しつくしてしまうのだよ」
「でもそうすると、過去が無くなるから現在も無くなるのでは?」
「バッファローたちは自分自身も破壊するという事ですか?」
「そうはならない。バッファローたちはこの世のすべてなのだから」
「はい? 何を言っているのですか?」
泉水氏はただ
「しかし、泉水さんの話には無理がある」と眼鏡をかけた男が口を開く。
真面目そうな
「バッファローは時空を破壊するかもしれないが、この世界は大きな亀の上に成り立っているのです。亀はこの宇宙と共に生まれて宇宙と共に消えていく。いくらバッファローでも世界の根幹は壊せますまい」
「超ひも理論によると世界の物質はすべて弦の振動から作られているそうだ。エネルギーの塊となったバッファローはいわば物質を作る物質である。超ひも理論の言う振動とは無論バッファローの運動エネルギーの事であるからして、貴君の言う亀も全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが形成しているのだよ」
「むむぅ……」
真面目そうな男が引き下がったのを見て、今度は体育会系のガタイの良い男が声を上げる。こんな真夏にアツアツのラーメンの
「しかし、猫の
「まことに可哀相な話ではあるがね……」
泉水氏はそう言って手を合わせた。ガタイの良い男はそれを見て号泣した。
「つまりはだ、貴君らはこんなところでのほほんとしている場合ではないのだよ。彼女を作って青春をしたまえ。もっとオシャレを楽しみたまえ。バッファローが世界を壊してしまうのは避けられない運命なのだよ」
「そう言われましても……」
顔をしかめた真面目そうな男にラーメンの汁がかかる。「あっついな! もっと静かに食えよ!」
「なんだと、猫ちゃんが可哀相ではないのか!」
「猫ちゃんは関係ないだろ!」
取っ組み合いの喧嘩を始めた男たちを見て泉水氏はカラカラと笑った。
男2人の取っ組み合いを楽しそうに眺めているのだから泉水氏もただ者ではない。
「そら、外を見てみろ。夜空に月が輝いているだろう」
「猫ちゃん………」
「君たちはなぜ月が満ちていくか分かるかね?」
男たちは喧嘩をやめて顔を見合わせる。
「バッファローの群れは全てを破壊する。しかし、破壊と創造は表裏一体なのだ。あの月はすなわちバッファローの全能を象徴しているのだよ」
「つまり、バッファローの群れは猫ちゃんを破壊すると同時に再生していると?」
ガタイの良い男のすがるような声に泉水氏は満面の笑みで頷いた。
「そのとおり。言っただろう? バッファローは物質を作る物質であると」
「おおっ! バッファロー万歳! バッファロー万歳!」
「アホらしい。僕はそんな話を信じませんからね」
「おや、あれはなんだ?」
泉水氏が空の一角を指さした。そこには夜空を突き進む黒い何かの群れがいた。黒い群れは星々を縦横無尽に破壊してまわり、彼らが通った後は全て暗黒に包まれた。しかし、彼らの
それを見て泉水氏は満足そうに頷いた。
「見たまえ。地動説を提唱したガリレオ・ガリレイはやはり間違っていた。夜空は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが日々作り替えていたのだよ」
「そんな阿呆な………」
「さあ、貴君も一緒に唱えたまえ。バッファロー万歳! バッファロー万歳!」
「バッファロー万歳! バッファロー万歳!」
開け放たれた窓から羽虫が一匹入り込んできた。白色電球にぶつかってカチンと音を立てた。
真夏の夜の、何でもない一日が過ぎていった。
バッファローの群れと宇宙創成に関するいくつかの考察 あやかね @ayakanekunn
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