各世②〜この女はもうだめだと言う声が聞こえる

 玄関で話し声が聞こえる…しどろもどろの…


『はーい、あぁ?散華?どうしたん?急に?珍しい、家まで来るなんて…』


 『あ、あぁ無太郎?…ひ、久しぶりだな?そうでもない?あは、あはは…各世は…いるかな?』


『え?暴力はやめてよ?いつも言ってるけど…』


『違う違う!本当に!ただ話があるだけ!!』


 無太郎に、おーい!各世〜と呼ばれて行くと、明らかに強張った散華さんがいた。


『各世、話を…したいだけ…ちょっと出れる?』


『うん』とだけ返事をすると外に出る。

 無太郎が少しだけ何かを察してたけど、何も言わなかった。


 2人、無言で歩くこと数分後。

 一番近くの自販機の前で止まる散華さん。


『各世、なんか飲む?奢るよ…』

『じゃ天然水で、』

『は?水?水道水で良くない?コーラでも良いよ?』

『いや、水が良い…』


 ガシャコンッ


 水を掴んで投げてきた。

 何を言いに来たんだろう?


『まぁ…各世と無駄話もないわな…言う事だけ一方的に言うから』


 缶コーラを飲みながら夜空…月?を見ている。


『私…な、無太郎が好きだ、いや、好きだった。各世と付き合ってるから仕方無いなとか思ってたけど、お前、ずっと貴哉ともしていただろ?おかしいと思ったけどさ、無太郎に聞いたら口出すなって言った。だから言わないけど…もし別れたらっ!無太郎を悲しませたら…お前から奪うつもり…だったけど…だけど…』


 好きなのは見ていれば何となく分かったけど…無太郎そんな事言ったんだ…


『もう好きって言える資格は無くなったと思ってる…言い訳じゃないけど…各世…お前もいたからさ…この間…変な感じで…今川に…無太郎への思いが溢れた時に…気持ちが何故か今川に変わって…愛してるって何度も今川に囁いて…舌を…からめ…オエ…』


 咽くぐらいなら言わなければ良いのに…


『とにかくさ、私からは…もう…無太郎には関わらない。各世もそれで良いか?』


『どっちでも…だって散華さん、そもそも私達に関わってないし、無太郎が友達だって言うならそれで良い』


『おまっ!?まぁそうか…そうだよな…でもよ…』


 散華さんは気持ち悪そうにしながら言った。


『各世…こんな事…言いたかないけどさ…今川の言ってた事やってた事…何かされたとは言え…それで正しいと一瞬でも思った自分に吐き気がする…何が沢山の人とするだよ…何が身体のやり取りが軽い事なんだよ…私がこんなに辛いのに…嫉妬…妬み…独占欲…傷付く人がいるのに…好きな人が傷付く事が…当たり前なもんかよ…正しいもんかよ…だから…お前にも吐き気がする…お前、間違ってるよ…』


 少し涙ぐんでるけど…だから何?

 私は…それで6年近く無太郎と付き合って来たけど…


『それ、無太郎が言ったの?無太郎は…貴方が、想像している様な人じゃないよ?散華さんは辛かったかも知れないけど…無太郎と散華さんは違うと思うよ?無太郎は…私とも貴女とも違うよ…』


『え?そんな?では…あ…うぅ…そーなのかな…』


 これは私の言う事では無いかも知れないけど…



『う、うぅ、分かったっ!分かったよ…どちらにせよ私はもう無太郎に…じゃあな…無太郎にオヤスミって言っといて!』


 何しに来たんだろう?

 どっちでも…良いや…誰も無太郎の事は分からない。

 

 ねぇ、無太郎?身体の関係が他所にあるのは嫌い?

 浮気じゃないよ?だって心は無太郎だから。

 空気の様な無太郎、子供の時の約束。


―無太郎と私は運命だから!だから何があってもいつか一緒になるんだよ―


 私の思い…無太郎の気持ち…もう私は無太郎に確認もしない。

 貴哉とも終わる時が来れば終わる。


 そんな事言ってたら、後日、貴哉がボコボコにされた。

 貴哉は何も言わなかったけど、車に轢かれただけとか言ってたけど、多分散華さんだろうな…


 その散華さんも普通に無太郎に絡んで来るらしい。私が偶然いた時も『浮気してないだろうな?』とか言ってた、来た時の雰囲気と全然違う。

 まるで記憶を失っているみたいに…でも意味わかんない人だからあり得る話だ。


 そんな話を無太郎とした。大丈夫かアイツとか言ってたけど…最近、無太郎は私達幼馴染にもあまり興味が無さそうだ。


 それでも大学卒業して、無太郎も私も就職して…結婚の話が出てきた。

 2人で新しい家を探しに行った。


『この家で無太郎と子供を育てて貯金して、私達の家を買いたいね』


 美しい未来の話を沢山した。


『結婚式は一番キレイなドレスを着て無太郎の横に並ぶんだ』


 最近、自覚する。子供の時から寂しがり屋の私。

 無太郎を男として見ていない、何故なら彼が空気だから。なければ生きていけない、そんな人。


 そして男として見ていないから、どうしても夜は貴哉と過ごした。

 心は寂しくなくても、身体が寂しくなるから。





 そして…貴哉との関係がバレた。

 始めて知る無太郎の心の中、これだけ一緒に過ごしていて…無太郎の反応で気付く。


 本気で信じていたんだ、私の事。

 本気で私を女として付き合っていたんだ。

 私以外の女性を好きにならず、私と触れ合わなくても他の女の身体にも触れず、私だけを見ていたんだ。


 もう気付いた時には遅かったけど…

 弁解しに無太郎の家に行ったが、弁解の余地は無い。

 しかしお父さんもお母さんも無太郎を気に入っていた、家族ぐるみの付き合いだっだ。

 もう駄目だと思ったけど、お父さんが一緒に行ってくれると言ってくれた。

  

 懐かしくも嫌な、歪んだ空気、無太郎の顔。

 無太郎が昔、学校の後輩の女の子が死んだ時の空気だ。

 私自身に諦めはすぐついた…気持ちの置き場が違っていたから、前から少なからず覚悟していたから。

 だけど無太郎が怒っていた、傷付いていた。

 私は…もしかしたら無太郎の為に償わないといけないのかも知れない…

 その為に結婚して…無太郎が望む幸せを私が提供するべきだと思った。


 無太郎は裏切られたと言う…私は…


『はい…でもね…昨日…昨日が初めてなの…結婚決まって…何だかフワフワしてて…それで…ごめんなさいっ!もう2度としない!貴哉とは会わないから!もう一度チャンスを下さい!』


 私は無太郎の為にもう一度、チャンスを貰う。

 何となくだけど、許してくれると思った。


 回答は『イエス』無太郎は何処までも無太郎だった。


 貴哉と話をつけなければいけない。

 もう身体の関係は終わりと言わなければと思いながら電話する。

 

『そっか…そうだよな…でも最後にさ…』


 突然の別れは辛いのかも知れない、電話でもグズグズ鼻を鳴らしていた。

 会ったら…してしまうかも知れない、貴哉も私と同じ…幼馴染であり空気の様な存在、そう想いながら待ち合わせ場所に向かった。


『各世!』

 

 神社の階段の上から降りてくる貴哉。


 一瞬、風が吹いた気がした。


 高さ三階建てぐらいの石階段の途中。


 そこから貴哉が飛んだ…いや、押された様な、明らかに不自然に転がる訳でも無く飛んだ。


 半分まで上がっていた私を越えて、その、瞬間、私の横をすれ違う時の、貴哉の、顔は、いつもの泣いているいつもの顔で…


 勿論、着地出来る訳無く…


 ドグジャッ


 貴哉は身体の形がおかしくなったまま血の海に沈んだ…気配を感じて上を見る…まさかと思い、散華さんを疑ったが…全然知らない女の人…いや、大学の時に見た…貴哉の彼女だった…


『死ねぇっ!貴哉ぁ!このクソ野郎!私の人生を返せええええ!!!』


 泣き叫びながら石段に座り込む女の人…

 私は…何が何だがわからないまま、脱力しへたり込んでしまい


 下にいた通行人が、救急車を呼んだ


 


――――――――――――――――――――――――




「はぁ!?なんスカこれ?」


 俺は驚愕した。各世と連絡つかないから…行けと言われた場所でこれ…


 各世の事や散華の今までが分かるとか言うから車を飛ばして、うどん屋になろうと前回車で逃げた場所、富士山の麓の街までやって来た訳だが…

 良く分からん散華の知り合いだかに、VRの機械みたいな物を頭に付けられたと思ったら…急に各世物語みたいなものが始まった。





 何故こんな事になったのか?


 あの後、結局、話し合いをちゃんとするべく各世に電話したが出ない。

 困ったなと言っていたら散華の母さんが聞いていた。


「全てを知るには再度、あの土地に行かねばな…」


 嫌な予感がしたが、怯えていた散華が言った。

 

「私、ケリつけて来る…全てに…無太郎に会える私になれる様に…」


 いや、今、会っているし話が…しかし、散華は何処かへ去っていった…大丈夫なのかな?


 そして散華のお母さんに連れられ、富士山麓の変なデカい古民家に来ている。

 

「何か次回に続くみたいな感じで終わったんスけど」


「次回というか、今…ね。それが真実よ…」


 近くにいた眼鏡の偉そうなお姉さんに言われた。


 嘘だぁ!?と言いたかった。

 けど、余りにも俺と各世の思い出が細部まで再現されていて…

 そして俺の知っていた…いや、想像していた各世とは全く違っていた。

 

 ただ、一言言えるのは…全く同意出来ないし、ついていけない。

 バレた瞬間に、許しを請うって馬鹿じゃねーの?

 罪を償うってなんなの?結婚をなんだと思ってんの?


 そんな考えをする奴って言う事が、もう受け付けられない。

 反省とかじゃないだろ、関わり合いたくない。


 とりあえず当分、顔も見たくない…


「フム、箸太郎、ショックだったようだな…次は散華の異世界物語だ。」


「はい?いや、もう良いんスけど…」


 俺はまた、VRの機械を付けられた。


 

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