第3話 確認なしで勝手にボタンを押さないでください!

「では、転生の際の注意点を説明します」


 転生装置の中、透明なカプセル上の定位置へ入った香織へ未来が注意事項を説明する。


「まず、香織さんは記憶を持ったままの転生です。その際、その記憶に対して規制がかけられます」


「おい、それって記憶を持ち越せねぇってことか?」


「いえ、規制の対象はあくまで香織さんから第三者へ知識を伝える事ですね。今回は過去への転生なので、対象には香織さんの前世に関わる事に加えて、未来のことに関してもです。もし、これらを第三者へ伝えた場合、数年以内に前世の記憶が消滅します」


「おう、とりあえず誰にも喋らなきゃいいんだな?」


「まあ、そう言う事です」


 香織の理解してるのかしてないのかわからない言葉に未来は肯定する。転生さえさせて仕舞えばあとはこっちの責任ではない。


「では次に過去改変と未来改変についてです。こちらには規制などはありません。ただし、いくつかの注意事項があります」


 未来は人差し指を立て、『1つ目』と説明をする。


「まずは過去改変に関する注意事項です。香織さんは過去、転生先からしたら未来の記憶を持っているわけですが、香織さんの行動次第ではその過去が変わってしまう可能性があります。通常は人一人分の行動なんて世界の流れが修正してしまいますが、あまりに大きなことを起こすとその修正力を超え、世界の流れそのものが変化します。どうしてかはわかりませんが、香織さんは自分の死んだ時間軸へ行きたいのですよね?それでしたら、過去は変えないよう、注意することが必要です」


 そこまで話し終えた未来は中指を立て、『2つ目』と説明を続ける。


「こちらは未来改変についてです。今回の場合は香織さんの死んだ時間。つまり転生先から17年後についてです。と言っても、こちらも内容は先ほどと同様です。香織さんの行動次第で未来がいかようにも変わってしまう、ただそれだけのことになります。ただし、過去改変とは1つだけ違う点があります。それは前世の香織さんの生死のについてです。もし、香織さんが何かしらの行動を起こし、前世の香織さんの命を救ってしまった場合、香織さんがここで転生するという結果そのものがなくなり、今の香織さんが消えてしまう可能性があるので注意してください」


 ここまで説明を終えた未来は、ふぅと息をついてから香織へ尋ねる。


「ここまでで、何かわからないことはありましたか?」


「長いわ」


「……はい?」


 予想していた質問とは全く違う答えが帰ってきて、未来はフリーズする。


「いや長いって。そんなに覚えきれないわ」


「今から17年分の知識を持ち越しする方が何言ってるんですか」


「それに、全部まとめて言うなよ。ちょっとずつ小分けにしろ」


「いえ、これもまだ一部なのですが」


「余計無理だろ」


「はあ……」


 香織の言い分に、未来は呆れたように返事をする。そんな未来を無視して香織は考え込んでしまう。


「そうだ!わかった!」


「な、何がでしょうか?」


 あんまり長いから一度受付に帰ろうかと思い始めた頃、突然声をあげた香織に未来は何か嫌な予感を感じながらそう尋ねる。


「お前も行けばいいんだよ!」


「……は?」


「そうすれば私が覚える必要ないじゃん!」


 香織はそういうと、カプセルの中へ未来を引っ張り込んでくる。


「ちょ、やめてください!」


「いいだろ? ほんの17年間だからさ」


「17年もでしょう!? 私は帰って溜まってたドラマ見なきゃ行けないんです!」


「そんなの、転生してからすればいいだろ?」


「転生先は17年前なのですが!?」


 装置の中、二人入るには狭いスペースで、二人は揉み合う。


「大体、私がここにいたら誰が転生装置を動かすんですか!」


「それならそこのチンチクリンに頼めばいいじゃないか」


 香織の言葉に未来は部屋の入り口の方を見る。


「誰がチンチクリンですか!!」


「叶さん!」


 そこには、書類整理から逃げどこかへ行っていた叶の姿があった。


「何遊んでるんですか? 先輩」


「よかった叶さん、いいところに来てくれました。手伝ってください!」


「はあ、わかりました。装置を動かせばいいんですね?」


「違います!香織さんを説得するのを――」


「えいっ」


 私が説明し終わるを待たずに、叶は装置の起動ボタンを押す。それと同時にカプセルの扉にロックがかかる。


「ちょっと!何してるんですか!?」


「え?だってこの装置動かすんじゃなかったんですか?」


「私が入ったままでどうするんですか!? 確認なしで勝手にボタンを押さないでください!」


「おいチビ、出来したぞ!」


「褒められてるのに褒められてる気がしません……」


 そんなやりとりをしている最中もカプセルの周囲は光だし、転生が進んでいることがわかる。


「叶さん! 私がいない間、受付をお願いします!」


「え!? そんなこと言われても私新人なんですが!?」


「あなたのせいでしょう!仕事の仕方は私のデスクのメモ帳に大体書いてますから、それを見てなんとかしてください!」


 そんなことを言い終わること同時に、装置からは転生が開始するアラームが鳴り始め、光り輝いていた周囲は一転し、暗闇に包まれた。


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