第45話

 リホさんのクラスの監督官を務める申請を出してみれば、担任の先生からは感謝されてしまった。


「三波先生が受けてくれたんですね! ありがとうございます、助かりました! いやぁ、流石にサッカー部との掛け持ちは難しいと思っていたんですけど、流石三波先生ですね!」


 何が流石なんだろうか……。

 もしかして、困ってるのを察して引き受けたとか思われているのだろうか……。

 すみません、全然状況を理解してなくて『やることなくて暇だなぁ』とか思ってました。

 全然、周りに気を使えてなかったです……。

 

「いえ、ホントに偶々ですから……むしろ、対応が遅れてしまいすみませんでした……」

「またまた! 今度、このお礼はきっちりさせてくださいね!」


 朗らかに笑って去っていくリホさんの担任。

 私は申し訳ない気持ちでそれを見送ることしかできなかった――――。




 文化祭の準備期間は完全下校時間まで残って作業をする生徒が多い。

 監督官になってしまった以上、私は当然それを見守る義務がある。

 ということで、最低限の事務だけ終えた私は放課後になって早々にクラスへと向かう……つもりだった。


「あの! 三波先生……」


 なんだか久しぶりに聴く気がする。

 原田先生の声だ。


「原田先生……どうしました?」


 実は、夏休みの一件以来、話すのは初めて。

 しかもあんな話をした後だと、どんな顔をして話せばいいものか……。

 けれど、そんな雑念はすぐに消えた。

 彼女が申し訳なさそうな顔をしていたからだ。


「あの……文化祭の仕事、何か手伝えませんか? 私、何にもすることなくって……。本当は岸田先生の代わりをしようと思ってたんですけど……」


 岸田先生というのは、リホさんのクラスの担任。

 

 そうか、私が原田先生の仕事を奪ってしまったか……。

 どうにも間が悪かったらしい。


「すみません、横取りしてしまったみたいで……」

「いえ、岸田先生とあまり話したことなくって、私がモタモタしてただけなので……」


 どうやら、原田先生はまた人見知りを発症させていたらしい。

 相変わらず小動物みたいな人だ。


「えっと、それは良いんですけど、なんというか私だけ何もできてなくて……。皆さんに申し訳ないというか……」

「偉い……!」

「えっ?」


 思わず考えるより先に言葉が出てしまった。

 いや、本当に偉い。

 仕事が無くて暇だとか呟いて学校を徘徊してた人間とは大違いだ。

 

「私はそんな気遣い出来てませんでした……」

「はい? いや、三波先生は岸田先生の代わりを申し出たじゃないですか」

「いえ、実は――――」


 なんとなく原田先生には、自然と本当の事を伝えることができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る