第44話
「あのー、なんでこんなことに?」
吉村さんを手伝い輪飾りを作ったら、適当な所で校内の見回りに戻る予定だった。
リホさんと学校で話す口実ができてちょっとラッキーだなんて不純な事を考えていたりしたのだけれど、それが良くなかったのだろうか。
私は訳の分からない状況に巻き込まれている。
というか、訳の分からない状況を作った中心人物のようになっていた。
「三波先生は長身だからカッコいいスレッドのある服が良いと思う! チャイナ服とか!」
「いや! 先生には絶対メイド服が似合う!」
「結局ミニスカが好きなのよね、男子って」
「違うっての! 三波先生にはクラシカルを着せるに決まってんだろ!」
「ならいいか……」
いったい、何がいいんでしょうか……。
何故かリホさんのクラスでは私にどんな服を着せるかで謎の議論が白熱している。
「あのー、皆さん、そろそろ作業に戻っては? 私も校内の見回りに……」
「「「待ってください先生! 大事な話なんです!」」」
何故か無駄に息ピッタリの生徒たち。
リホさんまで混ざっている。
この議論に一体どんな価値があるというのか。
私の服装なんてどうでもいいじゃないですか……。
というか、チャイナ服とかメイド服なんて25歳に着せようとしないでください。
恥ずかしくて死んでしまいます。
「でもまさか先生がウチのコスプレ喫茶を手伝ってくれるなんてな」
「はい?」
一人の男子生徒が訳の分からないことを言い始めた。
「だって、吉村が連れて来たって事は手伝いをしてくれるんですよね?」
「い、いえ、私は輪飾りを作るだけで……」
「え~、ここまで来たら受けてくださいよ先生!」
吉村さんから追い打ちが掛かる。
今までそんな話は一度も出てきていない。
どうしてそうなってしまったのか。
たしかに、この学園では教師に手伝いを要請して出し物をすることができる。
飲食関係の出し物は特に衛生的な問題も発生するため、教師に監督依頼をするのが普通だ。
でも、それは基本的にクラス担任の仕事であって、私のようなクラスを受け持たない人間には関係ない……はず。
「ウチの担任はサッカー部の方から要請が掛かって、そっちに行っちゃうんですよねぇ。それで他の先生を探してて」
この学校のサッカー部は生徒数が多い。
たしかにクラスの方と兼任は難しいだろう。
「だから、三波先生が手伝ってくれると助かるんですけど……」
二人の女子生徒が私を挟み込むようにして詰め寄ってくる。
ちょっと怖い。
そして、リホさんから留めの一言があった。
「三波先生って、確か文化祭では手が空いてましたよね?」
ちょっと前にリホさんから文化祭で空き時間がないか聞かれていた。
てっきり私はそれとなく文化祭を二人で回ったりするのかなぁ、なんて脳内花畑を耕していたのだけど、違ったらしい。
学校では極力二人の関係を知られないようにしているのだから、そんなことあるはずないのに……。
でも、まさかプライベートのやり取りで言質を取られていたとは。
卑怯ですよリホさん……。
「はい……」
こうして、逃げられなくなった私はリホさんのクラスで監督教師として登録されることになってしまうのだった。
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