第43話
「おー! 里穂と三波先生息ピッタリだね!」
作業を始めてから十分は経った頃だろうか。
黙々と飾りを作っていると吉村さんからそんな言葉を掛けられる。
「えっ……そ、そうかな?」
リホさんは焦りと若干の嬉しさがブレンドされた何とも言えない表情になる。
正直、私も照れた顔になっていないか心配だ。
「うん。ずっと同じ動きしてたよー。凄かった!」
「あはは、よく見てるね……」
「いやー、面白くってついね。手も動かさないで見入ってた!」
「手は動かしてよ!」
「冗談だって~」
吉村さんとリホさんはやいのやいのと言葉を掛け合う。
正に女子高生の日常といった感じだ。
見ていて微笑ましい。
「そういえば三波先生ってさぁ、なんで急にスーツやめたの?」
そんなことを思っていれば、突然に話の矛先はコチラに向いた。
話の取り留めのなさが凄い。
「他の先生たちがスーツを着ていない中で私だけが目立っていたので……」
「えー! それがカッコよかったのにぃ!」
どうやら私のスーツ姿も捨てたものではなかったらしい。
ちょっと嬉しい気持ちになる。
しかし待てよ? つまり今の格好が不評という事のなのでは?
「……戻した方が良かったりします?」
軽い気持ちもそんな質問をした途端に、これまでガヤガヤとしていた教室内が静まり返った。
いったい何事だろうか……?
「私はスーツの方が好き……」
口火を切ったのはリホさんだ。
そして、それに続くように女子生徒たちがポツリポツリと同意を示す。
「わ、私もスーツの方がカッコよくて好きだった……」
「私も」
「うちも……」
教室で別の作業をしていた生徒たちは、どうやら私たちの話を傍聴していたらしい。
まさかこんなにもスーツ姿が求められているとは思っていなかった。
思いがけない発見だ。
「じゃ、じゃあ、明日からスーツに戻そうしましょうかね」
生徒たちからスーツ姿の方が人気ならば、そちらを選ばない理由は無い。
そう思ったのだけれど、今度は別の方向から男性生徒が私服を推してくる。
「い、いや、……俺は私服の方が良いと思う」
「俺も……」
「俺もそう思う……」
どうやら男子生徒の大半は私服推しらしい。
そして、何やら教室内の空気が不穏になる。
「男子は先生の何処を見て言ってんのよ」
「ちっちが!」
「サイテー」
「なんだとっ!」
いきなりどうしてこんなことになってしまうのか……。
「ちょっ、ちょっと皆さん落ち着いて……! 何を下らないことで――」
「いいや! これは大切な話ですよ先生!」
「三波先生は黙っていてください!」
わ、私の話なのに?
訳が分からないまま、生徒たちの激論が始まってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。