第42話

「それにしても灯、助っ人探してくるって、まさか三波先生を連れてくるとは思わなかったんだけど……」

「いや~、あては無かったんだけど、廊下をウロついてたら暇そうな三波先生を見つけてね。連れてきちゃった!」


 分かっていたけどノリが軽すぎる。

 吉村さんは、まるで友人を連れて来たとでも言うかのような物言いだ。

 誰に対してもこんな感じで接しているのだろうか。

 

「灯、あんたのその感じで通用するの優しい人だけだから……。そのうち怒られるよ?」

「大丈夫、ちゃんと人は選んでるよ」

「余計にタチが悪いな……」


 全く以てリホさんに同意だ。

 そんなことを思って油断していると、話の矛先が私に向いた。


「んじゃ、早速で悪いですけど、これとこれを持ってください」


 吉村さんから私に手渡されたのは折り紙と糊。

 何かしらの工作をすることになるらしい。


「えっと……一応私も見回りをしなきゃならないので、あまり時間を掛けすぎることはできないんですけど……」

「でも、さっき暇って言ってましたよね?」

「いや、それは……」

「言ってましたよねぇ?」


 吉村さんの圧が凄い。

 

「こらこら、灯。三波先生も忙しいんだから、あんまり無理言っちゃダメだって」

 

 困っているのを察してくれたようで、リホさんのサポートが入った。

 本当に頼りになる。


 というか、私が頼りなさすぎるのだろうか……。

 生徒から良いようにされかけている教師。

 なんだか恥ずかしくなってきた。


「まあ、作る物に寄りますけど……。何を作るんですか?」

「千羽鶴です!」

「むっ無理です‼ というか、誰かに不幸があったんですか⁈」

「ハ……三波先生、冗談だから……」

「三波先生の反応面白ーい! アッハッハ!」


 どうやら揶揄われてしまったらしい。

 考えてもみれば鶴を折るのに糊なんて必要ない。

 親しまれているというか、単純に舐められてしまっているのか……。


「ハァ……で、本当は何を作るんですか?」

「さっきから目の前の机に転がってるでしょ。それだよ」


 言われてみれば、机の上には折り紙で作られた飾りが幾つも置かれている。

 折り紙で作った輪っかを鎖のように繋げたもの。よくパーティで使われる輪飾りだ。


「ああ、これでしたか……」

「うん。そう時間はかからないと思う。今から私と里穂と先生の三人でこれを作るの」

 

 どうやら私が参加するのは決定事項らしい。

 もう既に人員の一人に組み込まれている。


 まあ、少しぐらいなら良いですけどね?


「分かりました。20分だけですよ? 私もお仕事があるんです!」

「はーい」


 そんな吉村さんの緩い返事と共に、私たちの作業は始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る