閑話 立花薫の祝福
その日、小学生の頃から仲の良かった親友――
過去形だったけど……。
「あのね、薫ちゃん。私、薫ちゃんの事が好きだったんだ。あ、もちろんLOVEの方ね」
何が
とにかく、そんな何でもない世間話のような感じで、彼女は私に過去の気持ちを打ち明けてきた。
この子はいつも前触れなく突拍子もないことをするから困るんだ。これでも昔と比べたら、だいぶましになっただろうか……。
そして、そんな彼女の気持ちに、ぶっちゃけ私はちょっと気づいていた。確信はなかったんだけど。
でも、好きだったと言われれば、やはり私にはそれほど驚きはない。
だから、私の返事は淡白なものになってしまった。
「ふーん、そっか。それで?」
「えぇ、もうちょっと驚こうよ……。その反応はちょっとショックあるって」
「あ、ごめん……。いや、まあ、でも里穂ちゃん結構分かりやすかったし……」
中学時代の彼女からは、私をやたらと意識しているのが態度で伝わって来ていた。
里穂ちゃんは、私が他の友人と仲良くしているだけで機嫌を悪くしていたし、彼氏が欲しいと話すたび残念そうな顔になっていた。
それが行き過ぎた友情なのか、恋愛感情なのかは判別できなかったけれど、あれだけ露骨だと只ならぬ感情を抱かれていたのは察しが付く。
だから、恋愛感情があったと言われれば、どうしたって「ああ、そうだったんだ」くらいの感想になる。
しかし、そうとなれば聞いてみたいことが 1つある。
「もしかして、里穂ちゃんが元カレと初めてあったときの勝負服ってさ……私に見せるためだった?」
まだ彼女が私を好きならこんな事を茶化すように聞くものではないのだろう。
けれど、言葉のニュアンス的に彼女の私へ気持ちが終わったものなのは間違いない。
「や、やっぱ、その話になるよね……」
「そりゃあねぇ」
私と彼女が二年近く疎遠になってしまった原因。
私の元カレとの騒動。
もう 1つの終わった話。
「元カレの事はもう何とも思っちゃいないけど、やっぱりあの服装はいかがなものかと思うよ」
「ご、ごめんなさい」
「いやぁ、まさか元カレじゃなくて私を誘惑していたとはねぇ……プッ」
今にしてみればコントみたいな話だ。
私は親友に彼氏を奪われそうになったと勘違いしていたけど、その実、里穂ちゃんは彼氏から私を奪おうとしていたらしい。
この話は私たちの間で生涯語り継ぐお笑い種として擦り続けることになるだろう。
「ちょっ! 笑う事無いでしょ!」
「いやいや、だって面白すぎるでしょ! アッハッハ!」
「もー……フフッ」
いろいろ可笑しな変遷を辿ったけれど、私たちの関係は結局『親友』に定まった。
きっと、私たちはそういう運命にあるんだろう。私は結構そういうスピリチュアルな考え方が好きだ。
だって、ロマンティックじゃないか。
「それで、なんで急にそんな話になったの?」
私は自分で逸らしてしまった話を元の場所に戻す。
「ん~、なんていうのかな。新しい恋が始まったから、しっかり過去の気持ちを終わらせたくなった……みたいな?」
「え、なに、私の連絡先とか消されるの?」
「ち、違う違う! そこまで重くないから! てか、それは恋人と別れた時にすることでしょ!」
この友人はいちいち良いリアクションをしてくれるからつい揶揄ってしまう。
「アハハ! ごめん、冗談。それで?」
「ハァアア……。そういえば、薫ちゃんて
どういう経緯で知り合ったのか、親友の家に頻繁に出入りしているらしい大人の女性――
里穂ちゃんがハルさんと呼ぶ彼女には、私も大変お世話になった。
背の高いカッコいい女性で、ファッションに拘ればモデルにだって引けを取らなそうな人だ。里穂ちゃんとは違った雰囲気の美人。
どうにも生活力が低くて頼りない人であることも分かってるのだけれど……。
「やっぱり、三波さんのことが好きなんだね?」
「…………うん」
先回りした私の問いかけに、彼女は素直に答える。
嬉しいような、寂しいような。形容し難い感情が胸の内で渦巻いた。
どうやら、私は彼女にとっての一番ではなくなったらしい。
案外、彼女から告白されていたら、私たちは付き合ったりしていたのだろうか……。
そんなことを考えるけれど、結論はすぐに出る。
いや、そんな『もしも』は存在しない。何があっても、やはり私は彼女の親友だ。
だって、そういう
だから、私から親友の彼女へ贈る言葉は決まっている。
「おめでとう、里穂ちゃん」
「……ありがとう、薫ちゃん」
そうして、私たちは、また友情を深めた。
これは、そんな日常の一コマ。
ちなみに、このやり取りで私は二人が既に恋人関係にあるのだと勘違いしてしまったのだが、それは無理からぬことだったと言い訳したい。
里穂ちゃんはいつも言葉が足りないのだ……。
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