第33話
毎日何かしら話をしている私たちだけれど、話題が尽きるという事はあまりない。
しかし、話をしなくなる瞬間というのはあるのだ。
でも、それは気まずい沈黙というよりも、特に何も話す必要のない時間というか、ただ二人で居ることを楽しむだけの時間として楽しんでいる。
リホさんが私と同じように感じてくれているのかは分からないけれど、そうだと嬉しい。
私は、この時間が好きだ。
今はリホさんの家で静かに動画を見て寛いでいる。
画面の向こうでは、面白い行動をする猫を見て飼い主が大笑いしていた。
私とリホさんは椅子を並べてただ画面を眺めている。
なんとなくテーブルに置いた私の右手の上には、リホさんの左手が重ねられていた。
こういうとき、ソファーがあったらもっと二人で寛げるのだろうか。
膝枕とか…………。
「ソファーとか欲しいね」
私の思考を読み取ったようにリホさんが言葉にする。
「び、吃驚しました……。今ちょうど同じことを考えてました」
彼女は目を丸くした後に、小さく笑う。
「ふふっ……凄いタイミングだね」
二人で顔を合わせてもう一度笑う。
何とも言えない幸せなひとときだ。
「でも、リホさんの部屋にソファーを置いたら流石に狭くなってしまいますよ」
「だねぇ。そのうち、広い家を借りたいな……」
彼女の言葉でなんとなく想像した広い部屋には、私とリホさんの二人がいる。
二人で当たり前みたいに一緒に生活できる家。想像の中のリホさんは、もう学生ではなくなっている。
リホさんも、こんなことを考えてくれていたりするのだろうか。
「いいですね。ソファーと、あとテレビも欲しいです」
「えー、テレビはいらないって」
前にもこんな話をしただろうか。
テレビが必要だとか要らないだとか、そんな話をしたような気もする。
「私には、必要なんですけど……」
「あ、あたしの家の話なんだけど…………」
「うっ……」
流石にこれは恥ずかし過ぎる。
一瞬で顔が熱くなっていく。私の顔は相当に赤くなっていることだろう。
リホさんの方に顔を向けられない。
「ま、まあ、テレビも良いかもね」
恥ずかしげに言うリホさんの言葉で彼女を横目に見れば、そっぽを向いていた。
けれど、その耳が赤く染まっている。
何と表現すれば良いのか、とにかく、私は幸せだった――――。
「さて、夜ご飯の買い出しでもしよっか」
「そうですね」
思い出しただけでも恥ずかしくなるようなやり取りの後、私たちは買い物に出かける。
今日の夕食は何が良いだろう。
そんなことを話しながら、私たちは歩き始めた。
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