閑話 原田静香の回想①

 私こと原田はらだ 静香しずかは失恋いたしました。

 そもそも恋だったのかも怪しいものだったけれど。

 お相手は同じ職場で働く 2つ年上の先輩――三波みなみ 千晴ちはる

 彼女は、いつもビジネススーツを着こなす高身長の麗人。

 

 成人女性にしては低い身長に、生まれ持っての童顔と高めの声、いつも実年齢よりも5歳は若く見られてしまうことが私のコンプレックスです。

 若く見られることが嬉しいと思う方もいるでしょうが、私は同年代の女性たちと比べて威厳のでない自分の姿にはなかなか好感を持つことができません。

 その点、三波先生は私の逆を行く、正に頼りがいのある大人の女性といった風貌のお方。

 彼女は周囲から際立った雰囲気をもち、その手腕から職員内では一目を置かれ、生徒たちからは高い人気を誇っていました。

 正しく、私が憧れる大人の女性であり、理想の教師像。

 私は、彼女に憧れると同時に、であると勝手ながら線引きをしていました。

 それでも、学園のアイドルへ憧れを抱く男子生徒の如く、私は彼女をいつも横目に追ってしまうのです。

 

 そんな、ある日の事――。


「原田先生、よく三波先生を見ていますよね?」


 職場の別の先輩からそんな事を言われてしまったのです。その先輩は、私の隣の席に座る国語の男性教師。

 誰にも気づかれていないと思っていた私の秘め事は、隣に座る彼からは筒抜けだったらしく、私は慌ててしまいました。


「す、すみません、ちょっ、ちょっと気になるというか……あの~、えぇっと…………」

「ああ、そうだと思った。同性の中では一番年が近いですもんね!」


 どうやら私の行動を都合よく解釈してくれていたらしく、私は全力で彼の言葉に乗っかってしまいました。


「そーなんです! はい! 三波先生ともう少し仲良くなりたいな~、なんてっ……!」

「やっぱり、もう少し彼女と話す機会とかあった方がいいよね……。三波先生は良い人だけど、ちょっと職場では近寄りがたい空気出ちゃってて話しかけにくいでしょ」


 彼の言葉は、私が思っていたことそのままでした。

 いつもテキパキと仕事を熟す彼女の姿は頼もしくもあり、邪魔をしてはいけないという気持ちにもなってしまう。

 

 思わず頷く私を見た彼は、私にとって、あまりにも予想外な提案をしてきたのです。


「今日さ、仕事終わったら三波先生を誘って飲みに行こうか。彼女、お酒の席では結構気さくに話してくれるんだよ」


 彼の言葉は、あまりにも魅力的でありました。

 私は、反射的にこう答えてしまったのです。


「行きたいです! 是非!」


 この時の私は、数時間後の自分の痴態など全く予想だにしなかった。


 これから始まるのは、私の過去最大の失敗と、――甘酸っぱい大切な時間のお話。

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