得たものより失ったものの方が
居酒屋のバイトはバックレて終わり。家に電話着たようだけど、警察に捕まって出られなかった。しょうがない。
熱烈な恋は4か月もたず破れた。運命の人だと感じた彼は既婚者で私を気味悪がっていたなんて、何年経っても笑えない。いつか笑える日がくると期待していたけれど。
立ち直れずに数日過ごした。私に頼れる人などいない。親とは絶縁。きょうだいなんてそもそもいない。親戚なんて親と切れたらそっちも切れるのは当然。養ってくれる人はまだ見つからない。だから求人誌買って履歴書書いて。
職務経歴って馬鹿正直に書く必要ないって、誰も教えてくれなかった。2ヶ月やそこらで辞めたアルバイトなんて職歴にはならないと。お陰であちこち大恥かいたし、私をゴミ呼ばわりしたあのおっさんのことは未だに忘れられない。
すぐに喫茶店のウェイトレスの職にありつけたけど、何だかんだと20代は浮世の風に吹かれた。
運命の人を探すのに焦りだしたのは、その頃。駅やらに行く前にリゾートバイトに行った。皆より年嵩だったから居心地悪かったし出会いなんかなかったけど、アグレッシブだった。
地道に出会いを求めようと思って考えついたのが、駅だった。自販機でお茶買ってそれ飲みながら、ベンチにボーっと座って。不審者扱いされることはないだろう。ナイスアイディアだと思った。イオンに通うようになったのは駅通いを始めた少し後。家族連れの買い物客を眺めるのは中々楽しかった。私もそのうち旦那に荷物持たせて子供にじゃれつかれながら、通路を闊歩するのだと期待に胸を膨らませたことも、今となってはいい思い出。料理なんかしないのに生鮮食品売り場で、肉や魚の値段を調べたり。家族連れがどんなものを買うのか知っておきたかった。将来のために。
友達と呼べる人なんてひとりもいない。
若いうちに気が合うと感じた人とじゃれ合ったことはあるけれど、いつしか彼女らは私を置いてどこかに消えてしまう。連絡先と教えられていた番号にかけても誰も出ない。メールやラインを試しても輪に加えられたことがない。
働くようになって初めて、女の陰湿さに触れた。ターゲットに全力で圧し掛かって利用し、利用価値がなくなればポイ。
「うちら親友だよね」
なんて言葉、迂闊に信じてはいけない。親友を切り捨てるわけがない。あの人らにとって私は床にはめられたタイルだ。無いと不格好だし不便だけど、無いなら無いで問題ないというか。踏みつけていいとうか。
とはいえ人間不信に陥るたびに仕事を失うのは、割に合わない。若いうちはいいのだ、それでも。求人誌めくってあちこち電話すれば1週間もしないうちに次は見つかった。けれど年を食うとそうも言っていられない。どこも人手不足と聞くが、実感したことはない。今の仕事にありつくまで半年ほど、着の身着のまま、食うに困る暮らしを経験した。送迎車ありという文字が不意に視界に入り、ホッとしたのを覚えている。早速応募して潜り込めたから助かった。あの求人見落としていたらと、考えただけで震えてしまう。派遣からスタートして、今は名ばかりとはいえ社員になれたから食うに事欠かない生活を送れているけれど、あの頃は悲観することしかできなかった。
空腹を満たせて新しい服も買えるようになったら、今度は若い頃のことばかり思い出すようになるのだから、人は現金だと思うのだ。
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