総菜で一番旨いのはなんだかんだ言って唐揚げ
こざっぱりとしたシャツが好きだ。白やブルーのそれがいい。ゴテゴテ飾り立てた服は好きじゃない。立体的なデザインは必ず潰すし、何よりアイロンがけが面倒だ。
料理も裁縫も何もかもできる女になるはずが、皿洗いが面倒だから夜はスーパーの総菜で腹を満たす、その辺のおばさんに成り果てるとあの頃思いもしなかった。想像の中の私は、華奢な体に小洒落た服をふんわり纏い、物憂げな瞳に愛と誠を湛え、お気に入りの靴を履いて夫のため子供のため、行きつけのスーパーに足繁く通い、彩り豊かで栄養価の高い食事を丁寧に拵え提供し、家族に信頼される淑やかな女性となって、家事に育児に勤しんでいた。
夫がいないから子供もいない。結婚するつもりだったからキャリアなんて積んでない。30代半ばを過ぎた頃から一気に増えた二の腕の白いポツポツや、赤ほくろ。見目麗しい乙女はどこにも見当たらず、鏡に映る雌は年々肥え太り醜くなる。
夢見た上質の木製テーブルはこの部屋のどこにも存在しない。あるのは折れた足をガムテープで補強した折り畳み式の薄っぺらなテーブルと、へたり切った座布団1枚。街はずれの古アパート、はめ込み式の古い箪笥に一目ぼれした部屋に移って、8年経つ。
製品検査の仕事に従事して7年過ぎた。それまで転職を繰り返したお陰で、履歴書の職歴欄は記入するのに足りず、それらを書き連ねた便箋をビリビリに破かれ
「あんた社会に不要なんだよ。何でうちに来るかなぁ?うちはゴミを雇うほど優しい会社じゃねぇよ」
と、配送センター長とやらに吐き捨てられた青果会社は、いつか破綻すると思っていたが最近第三製造工場を稼働させたとニュースで知った。面接したあの男はまだあの会社で働いているのだろうか。もう15年も前の話。会社の隣は神社だったっけ。ここに毎夜訪れ、聳える杉に藁人形を五寸釘打ち付けてやろうかと、本気で考えたものだ。やらなかったけれど。
どの道ああいう「面接にきた志望者をゴミ呼ばわりするゴミ」が重用される社会なのだ。ゴミと見下す相手にはいくらでも強気になれるが、自分をゴミと見做しそうな劣悪な強者にはヘコヘコ首を垂れる。
遥か昔の出来事は未だに心を蝕む。今の仕事は天職かも知れない。人と口きかなくていいし、お昼は誰かの話に「ふんふん」と頷いてさえいればあとはシャンバラ。給料もそれなりに貰える。
長生きなんてする気はない。ある日突然ぽっくり逝けたらそれが一番いい。大家には面倒掛けるけど。そんなの私のなけなしの貯金で、何とか賄ってもらって。
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