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 海浜公園の東側。水族館の正面にある喫茶店でコーヒーを飲む中本たちに、若い男が近づいてきた。顔も髪も日に焼けた姿で、待っていた人物だとすぐに分かる。

「中本さんですか?」

 その男も、この場にいる客の中でも遊びにきたとは思いにくいメンバーの構成で、中本たちがすぐに分かったようだ。

「はい、槇本まきもとさんですね。わざわざありがとうございます」

「いいえ。直接お役には立てないかもしれませんけど、ちょっと興味深かったもので……」

 槇本は四人に小さく頭を下げた。

「あ、でも、興味本位というわけでもないんです。ゼミで北東アジア地域の研究をしているんです。少しはお役に立てるかもと思って」

 槇本は地元の大学院生ということだ。島根県はその位置的特徴からも、大陸との関わりが多い。赤く焼けた髪の毛から受ける印象とは違った青年のようだ。

「それじゃあ早速本題なんだけど、土曜日に君はここでサーフィンをしていたんだね?」

 中本に槇本が頷いた。

「でもサーフィンは無料キャンプサイトのある西側ではできませんから」

 李たちがバーベキューをしていた西側の海岸線には、沖にテトラポットが置かれている。当然槇本が言うようにサーフィンはできない。

「ですから、車もこちら側に停めていましたし、僕はその人たちを見てはいないんです。他の仲間にも聞いてみたんですけど、誰も見覚えがある人はいませんでした」

 全く情報がない。それでもここまで来てくれたのは、何か話したいことがあるからだろう。中本は、槇本に会話の主導権を渡した。

「それじゃあ、今日ここに来てくれたのは? 直接土曜日のことに関係しなくてもいい。なんでも話してくれ」

 槇本は座っていた椅子を少しテーブル側に引き寄せ、背筋を伸ばした。

「失踪した人は、まともな送出機関で入国している場合、必ずと言っていい程、失踪前にブローカーと接触しています。そのほとんどが裏サイト……といっても、堂々と公開して街中にチラシを貼っていたりもしますけど、そんなサイトを介した接触ですが、まれに直接獲物に近づいてくる場合があります。失踪した人は、ちゃんとした送出機関から来たんでしょうか?」

「ちゃんとしたというのは?」

「初めから『失踪』を目的としている人たちを入国させることがあるんです。その場合の多くは、失踪した直後に難民申請をして日本に留まろうとします」

 中本にとっては初めて聞くビジネスだった。だが、横山はそれを知っていたようだ。

「それはないですわ。捜索の依頼が同じ実習生から出されとる。直接接触したっちゅうのは否定できん思いますけど……っと、松本さんからメールや」

 横山の携帯にオオタ加工の松本から、李の自宅の住所と電話番号を知らせるメールが入った。ついでにと、楊と唐の自宅についても送られてきていた。

「槇本さん、中国語は話せますか?」

 中本が横山に届いたメールの内容を確認して槇本に尋ねた。松本からメールが来たら、楊に電話をかけてもらおうと思っていたが、槇本が話せれば楊の仕事が終わるまで待たなくても済む。

「ええ、一応。電話での会話となるとあまり自信がありませんけど」

「かけてみてもらえますか。今回いなくなったのが李紅さん。そして、彼女の姉も以前実習生として日本に来ていましたが、やはり失踪して大阪の風俗店で逮捕され、強制送還の後に自殺しています。それだけ踏まえて彼女が行きそうな所がないか、彼女の姉が失踪していた間の勤務先や住まいを知らないか、そしてもちろん彼女からの連絡がないか、そういった内容を聞いてみて下さい」

 中本が上げたポイントを、メモを持たない槇本の代わりに横山が手帳に記して、携帯電話と共に槇本に渡した。

「これは……ただの失踪じゃなさそうですね」

 槇本は手帳を眺めると、一度口に溜まった唾液を呑み込んで、李の自宅へと電話をかけた。

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