時はゲームが始まる前へ#2

夕暮れ刻の月光に照らされながら、急に現れた謎の男から"プレイヤー"に選ばれたと言われ、緊張で体が動けないでいると、辺りの異様さにすぐに気がついた。


音が一切無い。


社会の音や自然の音すら一切感じず、腕時計の針も18:25分で止まっていた。


それだけではない。


目の前にいる男の周りが"歪んでいる"のだ。


車がぐるぐると歪んだり、建物が縦に伸びたり縮んだりと。


体感として例えるなら、交通規制130キロ制限で100キロぐらいで走っていると、いきなりアウトバーンに突入して、時速190キロで強制的に走らされ、振動は激しく風切り音も凄まじく、視界はまさにぐにゃぐにゃ。


だがメーターが200キロを越えた辺りで、急に振動が無くなり、風切り音も無くなり、エンジン音も無くなり、音そのものが無くなって、だけど風景だけは動いている。


ある種の臨死体験をしているような感覚に今襲われている。


この異様さに戸惑っていると、目の前の男はその考えを見透かしたよう笑みを溢す。




「今ラミィ様がいらっしゃるこの世界は、現実世界を忠実に再現した裏の世界――【反転世界リバーサルワールド】です」


この男は一体何を言っているのだろう、そう思っていると彼は自身について話てきた。


「申し遅れました、わたくしは【ニューワールドオーダー】所属の【ニムト】と申します、以後お見知りおきを」


ニムトと名乗るその男は、自身のことをそう簡潔に説明した後、ラミィに向けて手の平をかざす。


「早速で申し訳ありませんが、ラミィ様をお待ちしている御方が御座しますので、そちらの場所にご移動の程を」


手の平を中心にして、より一層視界が揺らぎ始め、体が吸い込まれそうな感覚に陥る。


「ウワァァァァァ!!」


「ほんの少しの間眠くなりますでしょうが、プレイヤーの束の間のご休息のようなものです」


やがて視界から今までの風景が暗転し始め、深い深淵へと導かれる。

――――――――――――――――――――

お読みいただき有難うございます!

この作品が良いと思ったら、応援していただけると嬉しく思います!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る