時はゲームが始まる前へ#1
【5月19日 17:50 a.m. 東京都――渋谷区】
テレビから流れる2023年広島サミットのニュースを無視しつつ、夕日に照らされながらVRゲームを堪能するこの少年。
「あっついな~5月言ってもこの暑さは無いっての、バグってるわこの世界」
額に汗が吹き出るぐらい熱中していると、枕の横にあるスマホから着信音が鳴る。
無視をしていても永遠と鳴るので、ダルそうにしながらも、スマホを手に取って慣れた手付きで電話に応答する。
画面には姉と表示されていた。
「アンタ忘れてないとは思うけど、今日ウチが頼んでた――」
「オタクグッズの買い出しだろ?そんなの姉上様が行けばいいじゃないですか?(つかネットで買えよ)」
その後も姉の罵詈雑言を浴びつつVRゴーグルを外し、PCで自身が手掛けたアクセサリーショップを確認しつつ、嫌々ながらも姉と電話を続ける。
しかし高校がどうなの生意気だのと、どうにも埒が明かないので、渋々ながら買い物に行くことを承諾する。
「アンタさぁ、その口の聞きか――」
姉の話を遮るように電話を切り、悪態をつきながら、アニメキャラ等を取り扱う専門店へと向かう。
【5月19日 18:20 p.m. 東京都――渋谷区】
日本中が狂喜乱舞したバブルの豪華さとは違い、静かながらも華やかさを感じる東京の歓楽街。
夕暮れ刻の渋谷を闊歩するお洒落な港区女子達に、スマホを見ながら歩く大学生達、仕事終わりの冴えないサラリーマン達を上手く避けながら、専門店へと向かう。
「まるで夕飯前の奥さんの買い物みたいじゃねぇか」
いっぱいになったビニールを左右に持ちながら歩くがもう1つ頼まれた物を買うのを忘れたことに気づく。
店はもう閉店間際克つ、とんぼ返りする気も起こらないので、言い訳を考えながらそのまま家へと向かうが――
「ウォッ!?」
横髪を切るかのように、黒いシボレーカマロの車が現れ、帰路を塞がれてしまった。
急に道を塞いできた車に心臓が飛び出そうになるが、間髪いれずにシボレーから黒い眼鏡を掛けた黒執事のような男が、ドアを開けて姿を現した。
「――ッ!!?(これヤバい奴だろ!!?どうする!!?)」
恥ずかしいが叫んで助けを呼んだり、入り組んだ路地を使いながら逃げたり、警察を呼んだり、なんてことは分かってはいたが、こういう時何故か体が動かなくなる。
「貴方様が【ラミィキュース・フォン・ヴィスコンティ】様でございますね?」
「おめでとうございます、貴方は【プレイヤー】に選ばれました」
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