第38話 最終話 歴史の始まり
事件から半年が過ぎ、マリの元に一冊の本が届いた。もちろんマリに対してではなく図書館になのだが、それは大切な本であった。
その本を持ち、図書館に入ったマリはみんなにこう言った。
「おはよう、みんな、帰ってきたわよ、何百年ぶりに。仲良くしてあげてね」
そう言って、三階へ向かった。昨日から空けておいた一冊分の隙間にその本を差し込んだ。
「無事で良かった」
図書館から盗まれた一冊の本がやっと元に戻った。
「マリ、窓は開けていませんよね」
ミントにしてはおかしな事を言うとマリは思ったが、
「室温が急激に上昇しています、今までにこんな事は無かったので、機械の故障でしょうか」
「みんなが興奮しているのよ、スタジアムの観客のように」
「そうでしょうか・・・・ああ・・・・元に戻りました、私がおかしかったのでしょうか? 」
「フフフ」
マリはにこやかに笑った。
この本がどこから返ってきたのかは、知ろうと思えば知ることは出来たが、マリもミントも深く詮索まではしなかった。想像がついたからだ。これが盗品であることを知って、今の持ち主から返却されたのであろう。大規模な窃盗団の調査なので、今でもずっと続いているから、もしかしたらまだ帰って来る本があるのかもしれない。
「本に対する見方がきっと変わってくるわね、きっと」
「そうですね、さちも忙しそうです」
本作りプロジェクトは徐々に進んでいるようで、もしかしたらその本が、この図書館に仲間入りすることになるかもしれない。
「今日はこの棚を確認しましょうか、ミント」
「わかりました、マリ」
手袋と、ほこりが目に入らないようにするための防護メガネをかけたマリは、本棚の一冊を手に取り、やさしくぱらりとめくった。
「これから、本に対する価値観は急激に変わってくるかもしれない、でもその中でも私のやることは一つだわ」
そう心の中で思いながら
「あなたはどこか痛いところは無いかしら? 」
マリがそう言うと、クスリとミントの笑う声を、マリは聞いたような気がした。
終わり
図書館の巫女 マリ @watakasann
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