第37話 隠れた愛情

「ミント・・・・・私気が付かなかった・・・・」

「何をですマリ、彼女が何かしていますか? 」

「違うの、そうじゃないの。ここに来ている人達は、私の、巫女の存在に気が付いている」

 ミントはしばらく声を発さなかった。それはきっと歴代の巫女達も同じ事を言ったのであろうとマリは思った。

「私、一人で仕事をして、ほとんどの人は私のことを知らないと思っていた。

違うのね、ここに来た人達のほとんどは、巫女がいると認識出来た上で、きっとだまってくれているのよね、私達のために」

 この保管図書館に行けば、「巫女はいるのか」という周りの質問は絶対に避けては通れないだろう。それに対し来館者達は何の強制力も無いのに「いないよ」と言ってくれているのだ。それは巫女のため、そして何よりもこの貴重な本達のために。幼い頃の自分が何となく巫女の存在に気が付いていたのに、友達に言わなかったこと似ていた。

「私はここに来ている人達と同じなのね、その中でたまたま選ばれてここにいるだけだわ」

「マリ、たまたまというのはかなり言い過ぎです。自分を過小評価しすぎていると思いますが」

「ありがとう、ミント」

 先ほどの女性はまた本の棚に戻り、楽しげに読み始めた。マリはその中でふっと見えた気がした。龍星の衣装を着た若い頃のさち先生を、今は見ることが無くなった服を着た、きっと歴代の巫女であろう人達を。

「ねえ、ミント、すごくピンク色が似合う巫女っていたかしら? 」

「え? ええ、いましたよ。その話は多分したことがなかったはずですが」

「どうして? 」

「面白い話しですから、また後でマリ」

「はい、仕事を続けましょう、あと少しだから」

 この保管図書館で、食事を挟んだ長時間の閲覧は残念だが出来ない。

人々は、最後は別れを惜しむように五階へ進む。あの生物の彫刻をじっくりと見るために。事件の事を考えると皮肉なことだが、

「この階の動物の頭を撫でると幸せになれるって」

人々は終了まで、楽しげに過ごしていた。

「ありがとう・・・ございます」

ぽつりとマリは呟いた。

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