第30話 深呼吸後

 目をつぶって、ゆっくりとした呼吸を数度繰り返し、マリは監視モニターをまた真剣な眼差しで確認し始めた。数分前、年頃の可愛い女の子の動揺を見せたその人が、である。

「真逆だ、巫女達は本当に計り知れない、いやこれが人間なのか」

時々AI同士で話す話題だった。感情の起伏が故意に付け加えられたAIもあるが、それすら「ランダムに起こす計画」なのであって、仕事上ではそれは出来ないようなシステムになっている。

「とにかく私もいつも以上に集中をした方が良い」

彼らが一階以外のフロアーに上がってから、

「マリ、では今から準備します」「お願い、ミント」

一階の自動ワゴンが完全消音で動き始めた。


「わあ、この階、ネズミの匂いだらけ」

「本当にお前の鼻はすごいよ、犬以上だろうな、今度精密検査しよう」

特殊な薬品の入ったネズミ取りを、それぞれが設置し始めた。

ネズミの通路に的確に、素早い仕事だった。

「すごいわね、ミント、ここの人達」「信頼の置ける業者なのですが・・・」

問題の人物も仕事はしているが、時間が経てばたつほど、落ち着かなくなっていった。ここでの作業時間は厳密に決められている。マリもミントは終わりが近づくにつれ「このまま、何もおきませんように」と願った。


「大体終わったか? 」

「ハイ! 」

図書館に大きな声が響き渡ると、その主達は誰も「わあ! すごいな、コンサートホールみたいだ」とはしゃぐ。この日も全くそうであったが、一人、息子だけは階段を段ぬかしで上がり、五階まで行っていた。そうして彼は何のためらいもなく、ピョンと飛び乗った。最上階の吹き抜け部分の手すりの上に。


「何? どうして? 」

モニターを見ているマリの声と同時に、警告の電子音が館内に鳴り響いた。

「危険です、そのような行動は止めてください」

ミントの冷静な声の後


「お前は何をやっているんだ!!!! 」


男性の太い怒号が響き渡った。

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