第29話 やって来た人々

「わあ・・・・・・」


 5人の大人達は図書館に入るなり、周りをずっと見渡した。

「立派・・・・・・二時間検査された甲斐があったなあ」

「本当ね・・・・、こんな豪華な建物見たこと無い」

「どうした、さっきまでブーブー言っていたのに声もだせんか? 」

この二人は夫婦で、その若い息子に話しかけていた。

マリは彼を見た時、父親と母親の表面上の形質を、本当に半分ずつ持つ彼のことを愉快に思っていた。だが、さすがに検査カプセルでも「長すぎる、面倒」「なんでこの仕事受けたの? 」とずっと文句の言い通しなので、ちょっとため息はついていた。

あと二人は「若い頃何度か豪邸に行ったことはあるけど、ここまでじゃなかったな」そう話す、かなり年配のベテラン男性と、不自然に一言もしゃべらない若い男性だった。この彼がいわゆる「問題を抱えている人物」と知っているからか、どうしても悪い目で見てしまう自分を、マリは逆に反省した。

 マリと年の変わらない男の子はずっと周りを見渡している。その最中、ミントはいつものように

「おはようございます、朝早くから検査でたいへんだったでしょう、私はこの図書館の管理を任されているAIです」

するとその男の子はすぐに

「ここ! 若い女の子の良い匂いがする! ねえ図書館の巫女って本当にいるの? 」

 両親、同僚達はさっきのマリよりも大きくため息をついたが、さすがにこの会社の社長である父親は

「すいません! この子本当に世間知らずで、恥ずかしい。

申し訳ありません!! さあ、すぐ仕事にとりかかります。場所は聞いていますから」

「お願いいたします、この階と各階にワゴンロボットがいます。それにつまずいたりなさらないように気をつけてください」

「わかりました、さあ、仕事を始めよう」

バタバタと5人は動き始めた。


「言ったでしょ! 巫女の事なんて聞いちゃだめって」「本当かな? 坊主は鼻が利くから」「そうだろう! 絶対いるって」「すごいなあ」

その全てを聞きながら

「ミント、どうしよう、わたし何かいけなかったのかしら? そんなに匂いの強い物をつけたことはないし」図書館で仕事を始めた彼らのように、慌てたマリを、ミントはやさしく


「まあ・・・人間の・・・動物の雄ですから、仕方が無いですよ、マリ」


予想だに出来ない、その日の始まり方だった。

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