第27話 巫女の義務


 マリの部屋には、柔らかでやさしい朝の光が差していた。ぐっすり眠ったせいか、いつもより早く目が覚めたが、そのまま体を横たえていた。


「そうね、さち先生も他の巫女達もこんな気持ちだったのだわ」

小さな声だった。


 巫女はその姿を現わすことは出来ない。人と関わっただけで、結果、誰だかわかるからだ。全てはミントを通しての会話となり、完全に安心できる味方はAIだけとなっている。しかしこのAI達は、悪用されない限り、

完全なる善意を持ち、優秀で、意志が強く、辛抱強い。

宇宙中に点在している理想的な仲間が、常に巫女を支えてくれている。それは巫女と近い仕事をしている人間が、宇宙に何人かいるという間接的な証明であると、マリも想像している。


「でも・・・」

 

と不安になるのも仕方が無い。マリも巫女となってから、他人と接しないわけだから、人間としての大部分がどうしても「欠落」しているように思える。仕事上、他人と関わる事によるストレスはなく、より効率良くするというのも「昨日の自分」が相手でしかないので、気が楽は楽だ。会社内での色々な事に悩んだりしている人達に、申し訳なく思うことさえある、なぜなら彼らの払う「税金」でマリは生活しているわけなのだから。


そんな自分が「悪いことで結束した集団」と戦えるのか。


公共の物を奪い、それをお金に換える。彼らが得たお金でどう考えても「良いこと」を大々的にするようには思えない。

ミントすら感心するような、天才的悪知恵を持ち、これを使い一般社会で悪事を実践してきた大人に勝てるのか。


「そうよ、違うわ、「勝たなければいけない」のよ。これが巫女の使命だわ」

大昔のように、神の神託を伝える訳でも、守るわけでもない。

自分は「人の作った物」を守るための巫女なのだと改めて悟ったとき、

マリは体に良い力、無理がなく、穏やかだが、決して枯渇することのないものが満ちて来るのを感じた。だがそこにはほんの小さなウソ、子どものつくような、想像力に富み、罪がそうないものも一部分としてあるのがすこし愉快で、面白く思えた。


「そう、今日はミントと全てを打ち合わせておかないと」


時間通りにマリは部屋を出た。

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