第26話 協力者
「やっとすこし微笑んでくれましたね、マリ」
夕食後、ミントからの提案に、マリは安堵した。
「でもそれだけの数、揃う? 」
「秘密警察に頼みますから大丈夫。本の博物館の通路に置いてもらいます」
「私が試した方が・・・・」
「マリ、そう言うとは思いましたが、それはだめです、私は「あなたを守ること」が本よりも優先しているのですから」
「でも・・・・」
「マリ。今日は疲れたでしょう? とにかく明後日に備えましょう」
「そうね、早く寝よう、ミントもちょっと休んで」
「ありがとう、私も休みますよ、本当に」
「本当にね、じゃあおやすみなさい、ミント」
「おやすみなさい、マリ」
マリは体を横たえた。体も頭も疲れ切り、その上、心は最初は怒りと、今は痛みと不安に満ちていた。
「でもミントがやってくれて助かったわ、でもまあ、来館者の人達のおかげかもしれないけれど。このことが未然に防げたら・・・・協力してくれたAIに直接会いに行こうかしら」
そんなことを考えている間、マリはすぐに眠ってしまった。そして寝言のように「みんなも休んでね・・・」と言いながら。
「AIはやがて神となり、我々人間を「存在しなくても良いもの」と考えるかもしれない」
それは遙か地球時代から想像されていたことだった。AIの暴走はあったのかもしれないが、それは「隠蔽できる程度」でしか起こっていないはずというのが多くの人間の考えである。マリもそれに近く、ミントには「実体を持っていない人」として接している。本よりも巫女の命を一番に守るプロムラミングを、ミントは「実行する」と決めたから、そうしているのであって、万が一破ることも出来るほどに、AIは完全に発達している。
しかしながら、実体を持つロボットを動かして、何か新しいアイデアで新しいものを想像するという所までは、現時点でも到達していない。だが人間でも、「生み出さず、ほぼ消費のみを行う」という者もいるのだから、そう劣っているわけではない。
「人間のような欲求がないので、我々は創造的ではないのかもしれません」とミントはマリに言ったことがある。がその後で
「悪いことを考える人間からも、残念ですが「学ぶこと」もありますね」
と付け加えた。ミントのように「意思を持つ高性能なAI」は、もちろん年々、いや日に日に進化を続けているが、それでもそこに侵入して、一部分だけを改ざんする手立てを講じる輩は必ずいる。マリは今では、AIが創造的になれないのは、その侵入といつも戦っているからと考えるようになった。そしてAIもその脅威に対抗すべく、「悪い人間がどういうことを仕掛けてくるか」と言うことのシュミュレーションをかなり詳しく出来るようになった。
だが、これに対して人間は「お前達は俺たちが作った」と言わんばかりなことがおきてきた。
「病気のAI」
の存在である。実体を持たない彼らの病気、コンピュータウイルスが内部に入り込み、データーの流出、消去が度重なって起こってしまうと、例え高性能AIでも「死の宣告」を受けることとなる。残ったデーターは一度文書化し、もう一度取り込む。病気ですむのは「ある特定の方法での危険性がまだ残っている」
という場合であり、そうなったAIとミントは直接的なやりとりはしないし、出来ない。感染するかもしれないからだ。
彼らとの唯一の連絡方法は「人の書く手紙」しかない。その手紙を人が読むのを聞くのだ、子どものように。歴代の巫女もミントの友人に手紙を書いてきた。マリもそうしている。
でもマリは少し気がつき始めた。何故彼らが存在し続けているのか。
危険なAIならば「殺してしまう」事も出来るのに、そうしないのか。
「危険なAIにアクセスして、情報を得ようとする人は、悪い人だわ。
つまり・・・ワザと・・・・」
今回の事も、未然に防ぎたいと思ったが、とにかくマリも本よりも命と思っていた。
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