第25話 ハンモック遊び

 歴代の巫女達のほとんどが、この仕事を楽しんでいた様だった。元々高所恐怖症の巫女も、結局は誰よりも喜んで遊ぶようになってしまった。マリも確かに最上階から吹き抜けの所に飛び落ちるのは怖かったが、これも年に一度のお客様のためだから仕方が無かった。つまり、その日は転落防止のネットが各階に張られる。そして一階には体操教室のような、ふかふかのマットが敷かれている。

 もちろん、宇宙中からやって来る選ばれた来館者に、最初は一階からの美しい吹き抜けを楽しんでもらう。かれらが各階にちりぢりになると、このネットとマットが設置される。今まで来館者が「使用した」ことは一度も無いが、本が落ちたことはある。この確認を一ヶ月ほど前に行ったとき、マリは網の小さなほころびを見つけた。試しにちょっと引っ張ってみたら、自分の手でちょっと裂けてしまったので、総司令部に交換をしてくれるように頼んでいたのだ。

しかしすぐに必要と言うわけではないし、公開は半年後なので、それまでに間に合えば良いことだった。つまり、現時点ではネットはなく、普段の防虫駆除業では、張ったこともないが、手すりの補修などの場合はもちろん使う。


「誰かを故意に落とすつもりなのね、きっと」

「そのようです、街の防犯カメラ、彼らの通話の履歴、その内容から見ても」

「もう情報を収集したの? ミント? 」

「私の友人達は本当に優秀です。おかしな会話を既にピックアップしていたのです。犯罪を起こしそうな雰囲気であると」

「すごいわ、みんな」

「いえ、それを完全に繋げたのはマリ、あなたですから、みんなまた驚いていましたよ」

「でも予防策は・・・・」

「それは今から練りましょう、一番下のマットはあるのですから、あのマットは一応五階からの衝撃を受け止めることはできますが、ただ真っ逆さまに落下した場合は」

「一番下のマット・・・・そういえば、ミント! 保管場所を写して! 」

「はい・・・え! マリ! 何故マットがないのですか? 」

「この前倉庫で・・・場所が空きすぎていて、私も何となくおかしいと思っていたの、ネットだけのはず無いわよね、ごめんなさい」

「いえ、マリのミスではありません、私も気が付きませんでした」

「業者は明後日来るのよね、巨大マットは間に合うかしら」

「普段はマットは使わないですから、マリ・・・・」


「だとしたら、落とされたその人は・・・死んでしまうわ!! 」

 

自分が幼いときのようにネットの上ではしゃいだことを、マリは後悔した。


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