第24話 報告
総司令部にネズミの報告を終え、マリは昨日の掃除の続きをやっていた。
「やっぱりこの辺りの本は一度ちょっと干そうかな」
「今日は曇り空で風が少しありますから、虫干しには良いですよ」
「そうね、では外に」
ワゴンに本を積み、大きな図書館の日陰で一冊ずつ立てて置いた。
ワゴンは本当に単純な構造で、高さの上下は出来るが、遠隔で操作など出来ないようになっている。つまり暴走して本にダメージを与えるようなことのない機械だ。その分巫女の負担は増えるが、彼女達は素直に従っている。
そして、外に出るとき、巫女はまるで害虫駆除か、地球時代の宇宙飛行士のような重装備である。何故なら髪の毛一本から科学的に調べれば誰であるかわかる可能性があるし、たどり着けずとも、その年齢の推測が可能になるからだ。バラ園の秘密の通路にももちろん髪は落ちるのだが、これは有り難いことに、年間百人以上の子供達がイタズラで迷い込み、また捜す親もいるので、安全な隠れ蓑になってくれている。しかし図書館の真横ではそうはいかない。普通の日の昼間に外にいるのは、巫女か監督の庭師だけだ。
「マリ、この辺りを飛んでいる飛行物体があります。警告がされましたが、対応したのは一分後、罰金直前です」
「虫干しは止めた方が良いかしら? 」
「いえ、もう大丈夫です、それにそろそろ昼食ですよ、準備は出来ていますから」
「いつもありがとう、ミント」
普段と変わらない会話だが、お腹が減っていることだけが、正直なことのようにマリは思った。
食事を終え、ミントから告げられたのはあまりにも衝撃的な事実だった。
「これだけ・・・・ギャンブルで負債を抱えた人がいるの? まるでネットワークだわ、いろんな部署に」
「この星が急激に成長したためでもあります。お金があふれているから、悪い人間もやって来る。警察内部でも問題になっているでしょう? 」
「子どもの絵本を生み出している星で・・・何てことなの」
「マリ・・・・」
「わかっているわ、ミント、私も子どもよね」
「いえ、本当に成長しましたね、関心をしているのです。私の友人達もあなたが逆に「大人すぎないか」と心配していますよ」
「ありがとうと伝えて、手紙も書くけれど」
程なく、総司令部が業者の連絡をしてきた。急なこともあり、この星の会社だが、ここからは遠く離れていて、どちらかというと「家族経営」的な会社だ。
「そちらの方が安心かしら」
「ただ、一人マリより一つ上の男の子が来ますが、どうもその子がちょっとあわてんぼうらしくて、仕事中怪我が多いと」
「怪我? まあそれほど・・・あ!!!!!!」
「マリ、どうかし・・・あ!! そうでした!!! 」
「そうよ、そう大規模出なくてもいい、とにかく緊急のことを起こせば、ここに人が多くやって来る、あなたのセキュリティーを外さなければいけないような」
「だとしたら・・・・やはりこの計画は長い間練られた、緻密なものです」
マリは体中に力を込めた。拳を強く握り、目は誰かを睨み付けるようだ。これはミントが初めて見た、マリの完全なる「怒り」。
二人の予想した結論が将来「おきて欲しくはない」と心から願ってはいる。
しかし本を手に入れるため、彼らは信じられないような強硬手段を計画している。決して大がかりではないが、本当に本当に大切な「命」を引き換え、またはダシに使って。
マリの怒りは頂点に達し、今度は急激に体の力は抜けていった。
そしてとても落ち着いた声でこう言った。
「許せない」
ミントは何も言えなかった。
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