第20話 思考回路

「自分がもし巫女になったら」


それはマリにとって楽しくもあり、どこか怖いもの見たさのような所もあった。自分も将来、大好きな本に関わる仕事をしたいとは思っている。

しかし普通の司書ではない。巫女ともなれば、図書館星に住み、そう他の星への旅行も出来ないだろう。しかし「生活の安定」はあるわけで、現実的に両親の負担は軽くなる。が、家に頻繁に帰ることも、毎日のように連絡することも出来ない。自分が巫女であることを、家族にも絶対に悟られてはいけないのだ。

 そして、もし結婚するとなれば、その職を退くであろう事もわかる賢さを、十二分にマリは持っていた。そして女の子が持つ「普通の夢の一つ」と、「巫女であり続けること」を天秤にかけたとき、決まって

「こんな事考えたってしょうが無いわ」と笑って想像を止めるのが常だった。


でも最近は、その先を更に考えるようになっていた。

「巫女だったことを、人生をともにする人にも秘密にしなければいけないわよね」

 その大変さが彼女達を、妻、母とならずに、「巫女」たらしめているのかもしれないと気付いた。本を守るために一生を捧げた女性達に敬意と、どこか悲しい部分も感じていた。自分がなりたいかと言われたら、その覚悟があるかと問われたら、無いと言う方が近いだろうと思っていた。


 さちはしばらくだまったまま、マリの事を見つめていた。そして


「驚いたわ、あなたは本当に色々な事を深く考えられるのね。あなたと同じ頃の私は、きっともっと子どもだったわ。候補が若すぎると反論はあったのだけれど、私はあなたにこの仕事が本当にふさわしいと思っているの」


「しばらく考える時間を下さい」


とマリは自由に言うことが出来た。

さちの言葉と態度に強制と見られる所は一切無く、もし、自分が断ったとしたら、総司令部による簡単な記憶操作が行われるだけだと想像もついている。


 夕暮れの美しい紫は徐々に消えていく中、マリはまるで星に背中を押されているかのように答えた。


「私、やって見たいです。うまく出来るかどうかはわかりませんが」


「そう」

ため息のような、安心したような声を出した後、しばらく間があってさちは


「どうもありがとう、よろしくお願いいたします」

と丁寧に頭を下げた。

自分より年配の人にそう言われたのは、もちろん初めてだった。



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