第18話 運命の構成

 自分を見つめる女の子が、きっと正体に気が付いているであろう事は、全く同じ体験、50年ほど前のサチ自身もそうだった。

「私、こんな顔をしたんだわ」と心の中で懐かしく、穏やかに呟いていた。

 

「でもこれは作った運命なのかしら」


 確かに本当に年端もいかぬ子に巫女の話をしたのは、自分でも驚きだった。マリを見た瞬間、自然と出た言葉。図書館に帰り、そのことを正直にミントに報告すると

「サチ、それはあまり良くないことでしょう」と久々にちょっと叱られたのだが、ミントはすぐに

「冷静で考え深いあなたが口をついて出たというのは、本当に珍しい、次の候補者と考えてのことですか? 」

「そう考えてくれると有り難いわ、ミント。私が年を取って優しくなったのね」

「それほどの年齢ではないでしょう、サチ」

あの日の楽しいやりとりまで昨日のことのようだった。

 

 次の巫女を選ぶ。この仕事のほうがサチにとってはとても大変に思えた。ミントには冗談でも「窃盗団と対峙している方が楽」などと言えない程、このことに対しては二人とも常にアンテナを張った緊張状態であった。だから

「サチ、ちょっと息抜きに宇宙旅行でも行かれたらどうですか? その間、図書館は完全シャットダウンをしたいと思います」

「あなたの負担が増すでしょう? ミント」

「回路を新しいものにしてもらったので、試したいというのもあります」

「そうなの、じゃあちょっと甘えようかしら」

そうして旅に出て、ふと立ち寄ったのが第一鉱山星だった。旅行をする場合、彼女の身分は総司令部の資料管理者と言う事となっている。若い頃、沢山の図書館があることに憧れて、何度か来たことがあったので、本当に何十年ぶり、そして悲しいほどに街が、星全体が完全に衰退していた。総司令部はこの星の治安が悪くなることを恐れ、逆に他の星への移住を積極的に推進していた。結果治安は保たれ、善政の一つであると総司令部内では言っていたが、更に追い打ちをかける、いらぬ事をしようとした。つまり人口の割に数が極端にある「本の図書館」を他の星にそのまま移設するという案がでてきたのだ。水面下で進められた計画にもかかわらず、すぐに噂が流れ、このことは星全体を一気に、更に暗い雰囲気へと包み込んだ。

「絶対にそんなことをしてはいけません、この星から偉大な文学者が沢山出ています。その人達が口を揃えて「本がたくさんあったから、自分は幸運だった」と言っているのです。せっかく治安が保たれているのに、このことで暴動が起きるかもしれません」

サチは巫女としてそう答えた。

「図書館だけの巫女が、現状を何も知らずに言ってくれる」と悪口を言う人もいたが、それこそサチは知っていた。図書館を作った富豪たちが、毎年の維持費まで総司令部に寄付していることを。もしそれでも強行しようとするのであれば、この「維持費」が不正に流用されている可能性を、宇宙中の友人(AIの事だが)と一緒に調べようと思った。が、さすがに警察から「巫女というより推理探偵」と言われるサチの功績か、それとも何かしらの発覚を恐れてか、図書館移設は「巫女のお告げで、絶対にやってはらならい事」となった。

一部の人間しか知らないこのことについて、実はサチはミントにも言っている。


「マリにはしばらく言わないでね、まずは仕事に慣れてもらわないと」


 数人の巫女の候補者の中で、マリになったのはやはり運命だと、サチは今でも思っている。

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