第17話 自然な出会い

 まだ小学生の頃だった。図書館で、本を丁寧な感じで抱えた女性が、マリに優しく話しかけてきた。特別何を話したかまでは覚えていないが、マリは「こんな司書さんがいたのかな、それとも、読み聞かせのボランティアの人かな」と思ったのは覚えている。それからは一度も見かけていなかったので、友達と「もしかしたら小説家とか」と噂をした。

そしてさらに一つ完全に記憶の中から遡った、あの、美しい夕暮れの中で母親と話したこと。


以前友達から「ねえ、マリ、図書館の巫女って本当にいると思う? 」

本好きの女の子には、決して出会うことの出来ないアイドルのような存在であり続けている。

「きっといないよ、あまり意味がないもの」

「そうね、人が信用できないのなら、ロボットに任せればいいんだから」

まるで、友達をその方向に向かわせるような言動を、マリは逆に貫き、そしてあの日の思い出を誰にも決して話さなかった。母はもう忘れているだろうし、自分が一つ一つ大きくなっていくに従って、あの女性の言動がおかしいと思うようになった。

 「幼い子にどうして巫女の話なんかしたんだろう」

心の中の消えることのない疑問、そしてちょっと首をかしげるような出会い、それが、一つにつながった。

「そうだ、この人のこの声だ」

そう思ったときに聞こえたのは「はあ、やっとついた、やっぱりちょっと疲れたかしら」そうして彼女は振り返り、マリを見た。

あの日と同じ、紫の空、高台なので、空とフェンス、その中で一人の女性が自分を見つめている。

図書館の本で、紫色は地球では高貴な色とされた地域もあったと知った。


「先生はきっと誰よりも紫が似合う方です」


さちが図書館を去るときに、マリの言った言葉だった。

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