第16話 事件
「しばらく図書館封鎖でしょ? マリ、残念」
よく図書館に二人で行っていた友達から聞いた。本の窃盗があったというのだ。
「図書館の本なんて売り物になるのかしら、いろんな所にマークがついているって聞いたけれど」
「お父さんから聞いたけれど、それを全解除出来る装置があるんだって。あの図書館の大きな判子を含めて」
「そうか、お父さんそう言う関係の会社だったね、で・・・・どうなるの? 」
「それが・・・・マリ・・・・」
進学と同時に彼女はこの星を離れることになってしまった。父親の会社も残念ながら「この星での仕事が激減」したのだから、仕方が無かった。一番仲の良かった友達だった。彼女から「マリと一緒の学校に行こうかな? 」と言うような女の子だったので、心の痛手以外何物でも無かった。
結局その日、マリは図書館の外にある返却ボックスに本を返しに行った。このことが、図書館で働く人にとって良いことなのか、仕事を妙に増やす悪いことだったのか判断はつかなかった。入り口の「しばらくの間休館します」という手書きの張り紙は、字が上手な人の殴り書きで、勢いがあって、少し格好が良いとまで思った。
しばらくその張り紙を見つめていると、自分の横に誰かがやって来た。
自分の祖母くらいの年齢の婦人、そう、婦人という言葉がぴったりの人だった。落ち着いた感じで、穏やかな、読んだ本の数が、自分の何十倍あるのだろうと予想もつかないような人、その人が自分を見て少し大袈裟な程微笑み、
「この近くに大きな公園があると聞いたのですけれど」
「ええ、ここからが一番の近道ですが、急な坂を登らなければいけません」
「案内してくださるかしら? 」
「はい」
今まで会った人の中で、一番上品でもあった。
歩きながら、マリはこの女性がとても足が丈夫だと驚いた。元々自分も足の速いほうであるし、この道を登り、公園で一人静かに読書をして帰るのは、日課に近いことだった。その自分よりむしろ早く登っている。でもどこか急いでいる風もあった。すると
「良くこの道を通るのかしら」「はい」
「日が短くなったら、危ないわよ、可愛い女の子で、家もほとんど無いから」
「あ、はい。暗くなるときは、大きな出入り口から帰っています」
「そう、賢いわね」
公園に入っても、彼女はどんどん登っていった。一番見晴らしの良い場所は、マリのお気に入りの一つだったが、まるでそのことまで知っている様に、彼女は歩みを止めない。後ろ姿にさえ、迷った感じはなく、何かしっかりとした目的があってそこに行っている様だった。そして、マリは何か、今まで固く閉じていた自分の記憶の実のようなものが、ポンと一気に割れた気がした。
「私、この人と会ったことがある」
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