第12話 巫女の力


「ミント、あなたに何か変わったことはない? おかしいわ、これだけ匂いがしているのにあなたがわからないなんて」

「今は出来ます。しかしあなたは人としてはかなり鼻が利きますね。私はちょっとした故障だったのでしょうか」

「それではネズミの侵入経路を教えて。私もお掃除メガネを取ってくる」

お掃除メガネとは、いわゆる生物の痕跡が確認できるもので、虫から小動物まで、広範囲である。虫の多い時期になると、これを使って掃除をする。マリは走ってあの椅子の通路がある倉庫に向かった。全てはテキパキと、今、しなければいけないこと、後で確かめたいこと、頭をフル回転しながら考え、掃除用具を持って行った。


「マリ、ネズミは本棚に登って遊んだようですが、幸運な事にそこに排泄はしていないようで。ですが通路で・・・」

「はい、わかりました」

水中ゴーグルのようなめがねをかけ、マリは掃除を始めた。ミントもその間、もう一度館内全体の状況を調べ直し、ネズミがもう外に逃げてしまった事も確認した。そして、明るい声で

「マリ、今日はこれで十分でしょう。もう一度シャワーを浴びなければいけませんね、食事も用意が出来ています」

「ありがとうミント。ああ、疲れちゃった」マリも楽しそうに答えた。図書館を後にして、自分の部屋に戻り、いつも以上に食事中の会話を楽しんだ。


「そうですか、さちはそんなに元気でしたか、安心しました」

「龍星の民族衣装をくださると仰るのだけれど」

「ああ、あの色は、あなたによく似合うでしょう、マリ」


そうして食事を終え、お皿を洗う音が部屋中に響くのを、マリもミントもどこか静かな音楽のように思いながら、ミントは少し時間的には早いのだが、マリの部屋の窓のシャッターを閉めた。マリの方は、いつも以上に綺麗に手を洗う自分の行動が「必要であるのかと」自身に問いかけ、そしてその答えは、手に一滴の水も残さないように拭くことだった。

終わると、ソファーには座らず、見なれた自分の部屋の中央に立った。まさかこんなに早くこの言葉を使うとは、さちと楽しい時間を過ごしたこの日になるとは、まさに「禍福」、その運命に従うしかなかった。

ミントは何も言わず待っているようだった。歴代の巫女の経験からだろう。

そしてマリは小さく息を吐き、彼女達と同じであろう言葉を言った。



「十五代巫女の権限により、この部屋で今回のネズミ侵入、ミントの一時的故障の原因の究明を行います。不明瞭な点が多く見られことから、これは作為的な事件であり、大規模な図書館の洗浄を行う事となった場合、多くの人間が入り、大規模な窃盗行為が発生する可能性があります。

ここで調査をするのは、図書館で行った場合、ミントの動きが総司令部経由で確認できることとなり、情報漏洩が起きかねません。

図書館の本を守るため、巫女の最大権限の行使をお願いいたします」



しばらく時間がかかった。

そうしてミントではない声がした。


「保管図書館管理者マリ、最大権限の確認をいたします。どこまで行いますか? 」


「最大級、宇宙総司令の罷免権まで」


ほんのしばらく間があって


「わかりました。宇宙総司令の罷免権、全宇宙警察の犯罪情報、状況。総司令部内の全カメラ、職員の通信記録へのアクセスを許可いたします」


 全宇宙にはこの権限を持っている人間が数人いるという。

もちろんマリは自身が最年少であることを自覚はしている。


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