第11話 本の声
「嫌だ、この人の隣、ベタベタする」「ああ、外の空気を吸いたい」
「どこか遠くに行ってみたい」 「ここは快適で穏やかだ、平和は本当に良いものだ」「私は昔、もっと大事にされた」「仕方が無い、時が過ぎた。だが宇宙船に乗れるとは」「それも遠い昔」「たまには読んで欲しい」「この私の装丁を見て欲しい」
ざわざわと、ガヤガヤと、大きな声小さな声、通る声、怒った感じの声、
止まることがない、どんどん数が増えていく、言っている事は似たような事で、いざこざのような事も起こっている。それが「聞こえている」事が不思議であるとわかっている自分ももちろんいる、しかし、この街の雑踏の様な声の中、
はっきりと聞こえる声があった。それは決して大きな声では無く、他とは異質だった。
「会いたいなあ」「もういるかどうかもわからないよ」「きっと生きている」
「会えないなら、会いに行きたい・・・・」
そしてその会話を聞いた途端、図書館はまた静けさに包まれた。
だが自然な静寂に反するかのように、マリはこの階の少し離れた所に急いで向かった。本棚の一部分、全く同じ大きさと装丁の本が並んでいるが、その中の一巻がなくなっている。
「そう、これだ・・・」
そのマリの小さな声に、ミントは
「マリ、大丈夫ですか? 」
「え、ええ・・・ミント、私・・・」
「本の声を聞いたのですね、あなたも」
「本の声、あれがそうなの・・・・」
そう言いながら、並んだ本達をやさしくなでた。ミントもそれ以上は何も言わなかった。
何故ならこの無くなった本こそが「巫女誕生」の理由だったからだ。
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